東京農業大学

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教員コラム

舗装道路の健康診断ツールの開発

2016年10月1日

地域環境科学部生産環境工学科 教授 竹内 康

舗装のマネジメントシステムと問題点

 我々が普段利用している道路は、人や自動車等が通行しやすくするために「舗装」と呼ばれる土木構造物に覆われている。舗装は、路床と呼ばれる地盤上に構築され、日本の道路舗装の94~95%を占めるアスファルト舗装を例にとると、図1に示すように路盤、表・基層より構成される多層構造物となっている。なお、交通量が多い道路(例えば世田谷キャンパス前の世田谷通りなど)では、路盤は上層路盤と下層路盤の2層構成にする場合が多い。また、表・基層は、路面に作用する交通荷重を分散し路盤に伝達する役割を、路盤は表・基層からの荷重を分散し路床に伝達する役割を担っており、路面に近いほど供用時の環境は過酷になるため、耐久性の高い材料が使用されている。
 2015年に農水省が公表した農道の総延長距離は、平成25年時点で約17万km、そのうち舗装済み延長距離は約6万kmで、舗装率は36.1%となっている。一方、国土交通省による道路統計年報(2015)によると、日本の道路実延長は約121万kmにおよび、そのうち約98万kmが舗装道路(舗装率で約81%)となっている。前者は土地改良法、後者は道路法にしたがって整備された道路であるが、この他に港湾法や森林法等の法律により整備された舗装道路もあり、国内における舗装道路の総延長は100万kmを優に超える。このように、所管官庁は異なるものの、舗装道路は戦後復興期から経済成長期を経て安定成長期に至る間に整備され続け、物流インフラとして日本の経済発展を支え続けるとともに、災害時には避難経路や緊急搬送路としての役割を果たしてきた。
 一方、中央高速自動車道・笹子トンネルでの天井板崩落事故以来、道路や橋梁、トンネルなどの道路施設の維持管理が社会的に注目されている。これらの道路施設は、産業・経済・文化の発展の基盤であり、地域の再生・発展を図る上で欠かすことのできない重要な施設であるため、限られた予算・人員の制約条件下で、利用者の安全性、快適性を確保しつつ効率的に維持管理していくことが求められる。舗装に関しては1970年代から米国を中心に研究が進められ、舗装マネジメントシステム(Pavement Management System, PMS)として体系づけられている。
 PMSは、ネットワークレベルとプロジェクトレベルに分けて実施される。ネットワークレベルでは、行政区内の全ての舗装を対象とし、プロジェクトレベルでは個々の区間の舗装を対象とする。具体的には、ネットワークレベルの舗装マネジメントではプロジェクトに優先順位を付けて選定することを目的とし、プロジェクトレベルでは経済性を考慮した補修設計を行うことが目的となる。
 ネットワークレベルで優先順位を決定するにあたっては、路面や舗装構造の損傷状態から総合的に健全度を評価する必要がある。路面の損傷状態は、ひび割れやわだち掘れ等の進行具合から目視レベルでも判断できるが、舗装構造の損傷状態は目視レベルではわからないことが多々ある。人間にたとえるならば、疲労骨折のようなものであろう。スポーツ選手ならば、早期に発見し治療することで早期復帰が可能になる(舗装:軽微な補修で済む)が、重篤化した場合では日常生活に支障を生じることもある(舗装:舗装全体の打ち換え)と聞いている。
 現在、舗装構造の損傷状態を把握するためにFWD(Falling Weight Deflectometer)と呼ばれる試験機が広く活用されている。FWDは、図2に示すように重錘を落下させたときの衝撃荷重と路面のたわみを同時に計測する非破壊試験機で、構造的損傷を受けた舗装では荷重分散効果が低くなり、同一荷重でのたわみは大きく現れるという特徴を活かして、健全度評価を行う。医療行為で言うならば、触診に相当するだろう。
 しかし、FWDは定点載荷式の試験機で、ネットワークレベルでは100~300m間隔で計測を行うため、測定点間に損傷箇所がある場合にはそれらを把握できないだけでなく、測定中は静止しているため、交通規制が必要となり測定路線によっては計測できない可能性がある。したがって、ネットワークレベルでFWDによる舗装の健全度評価を行うには自ずと限界があるため、停止せずに移動しながら連続的に舗装の健全度評価が行える新たなツールの開発が求められている。


新移動式たわみ計測装置MWD

 連続的な舗装の健全度評価に対する取り組みは、欧米において盛んに行われており、牽引式トレーラを用いた非破壊試験機が幾つか開発されている。その代表例として米国のRWD(Rolling Weight Deflectometer)がある。しかし、RWDは極めて高価であるだけでなく、車両寸法が車両制限令に抵触してしまうため、日本に輸入して使用することはできない。また、健全度評価にあたっては、100~200mのたわみの移動平均を用いているため、地盤条件の悪い日本でよく観察される局所的な舗装の変状を見落とす可能性がある。そのため、日本に移動式のたわみ測定装置を導入するためには、道路関連法令に適合するスペックの車両を用い、かつ健全度評価区間を短くなるよう計測精度を向上させる必要がある。そこで、東京農大と(国研)土木研究所を中心とした研究チームでは、平成22年度から平成26年度にかけて種々の補助金を受けて、ドップラー振動計を用いた移動式たわみ計測装置の開発を行ってきた。さまざまな試行錯誤の末、我々は図3に示す移動式たわみ計測装置を開発し、これをMoving Wheel Deflectometer(MWD)と呼ぶこととした。
 図4は、土木研究所敷地内の外周路において実施したMWDとFWDによるたわみ計測結果である。FWDは1~2日かけて5~10mおきに計測したのに対し、MWDでの所要時間は1回あたり5分程度と極めて短時間で計測可能であり、計測結果は走行位置の変化等によって変動するものの、FWDと同程度であることがわかる。また、ネットワークレベル(100~300m間隔)でFWDを実施した場合に見落とす可能性がある局所的な不健全箇所(図4、500m付近)を検出できていることがわかる。このことよりMWDは、FWD試験を優先的に実施する箇所を選定し効率的に舗装マネジメントを行っていくためのスクリーニング試験機として利用可能であると考えられるため、現在、実用化に向けて一般道でのデータを収集しているところである。
 地域振興を図る上で、我々の生活を支える舗装道路の維持管理は欠かすことができない。しかし、国土交通省の推計によると、人口減少社会の到来によって、今後の維持管理に係る国民一人当たりの費用負担は大きくなり、農山村のような人口の少ない地域ほどその度合いは高くなると言われている。そのため、一刻も早くMWDを実用化し、広域における効率的かつ経済的な健全度評価が可能となれば、舗装道路の維持管理費の低減に貢献することができるものと考えられる。これが、我々の研究チームが目標とするところである。

[1]R.ハース、W.R.ハドソン(1989)「舗装マネジメントシステム」、北海道土木技術会舗装研究委員会.
[2]竹内康、川名太ら(2015)「舗装路面の動的たわみ計測装置の開発と健全度評価に関する研究」、道路政策の質の向上に資する技術研究開発平成26年度報告書.
図1 アスファルト舗装の標準的な断面
図2 FWD試験機
図3 MWD試験機(左:~2014年、右:2015年~)
図4 MWD・FWD試験機での計測たわみの比較

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