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教員コラム

食品(成分)や食習慣の改善による生活習慣病のコントロールを目指して

2016年3月1日

応用生物科学部食品安全健康学科 教授 中江 大

生活習慣病は、食品(成分)や食習慣の改善によってコントロールできるはず!

 生活習慣病とは、ざっくり言えば、「よろしくない生活習慣によって発生する病気」のことで、がん・脳血管疾患・心臓病のほか、糖尿病・高脂血症・高血圧・高尿酸血症などが含まれる。また、肥満と、それに関連して起こる諸変化は、メタボリックシンドロームと呼ばれ、生活習慣病そのものであるか、少なくともそれを促進すると考えられている。
 なお、生活習慣病については、次のふたつのことを覚えておく必要がある。
 ひとつは、ほとんど同じ疾患群を指す成人病との違いについてである。一般的には、かつて成人後に発症することが多いことから「成人病」と呼ばれたものが、必ずしもそうでなく、年齢よりも生活習慣の方が深く関係している可能性が指摘されたことから、「生活習慣病」と呼ばれるようになったと考えられている。この考えが必ずしも誤っているわけではないが、厳密に言うと正しくなく、正しくは「まったく異なるふたつの発想と根拠でくくった疾患群が、たまたまほぼ一致していた」ということなのである。
 もうひとつは、生活習慣病といっても、100%後天的な「よろしくない生活習慣」に起因するのでなく、遺伝的素因を含む先天的な要因も一定程度関与しているということである。
 「よろしくない生活習慣」には食習慣や運動習慣の質的・量的な不良、休養の不足、喫煙、過度の飲酒などが含まれていて、もちろん喫煙の寄与がもっとも大きいが、「よろしくない」食習慣の寄与もかなり大きい。
 私たちは、そこに目を付け、生活習慣病を食品(成分)や食習慣の改善によってコントロールできるはずだと考え、その実現に向けた研究を行っている。
 私たちが目指しているのは、最新の食品科学・毒性(病理)学・分子生物学的な知識と技術を駆使して、生活習慣病の背景分子メカニズムを解明し、鍵となる因子(群)を見出し、それ(ら)を標的として生活習慣病をコントロールすることである。
 私は、これを「分子標的制御」と呼んでいる。私はもともとがん研究を専門としてきたので、がんをターゲットにした昨今の「分子標的治療」という概念に親しく、その概念を食品(成分)や食習慣の改善による生活習慣病のコントロールに応用しようと考えたのである。

 

生活習慣病を動物で再現する!

 私たちの研究方法は、生活習慣病を再現する動物モデルを開発してヒトでできない細かなメカニズムの解析を行い、鍵となると思われる因子(群)を見つけ、それらの因子(群)に作用して疾患の発生や進展を阻止できる可能性のある食品(成分)や食習慣改善の効果を確かめるというものである。科学的な根拠をもって有望であると判明したものについては、将来的に、もちろんヒトでの検証に進むのである。
 私は、1980年代から生活習慣病のひとつである非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に注目し、ラットを使ったその動物モデルを開発した。NASHは、過度の飲酒と関係なく発生する脂肪肝に始まり、肝炎を経て肝硬変に進展し、さらに肝がんを合併する疾患で、肝炎ウイルスがコントロールされつつある現在、重大視されている肝臓病である。
 私が開発した動物モデルは、たとえば発がん物質やウイルスや放射線のような、なんらかの刺激を動物に与えるのでなく、ビタミンの一種であるコリンをなくし、蛋白質を同じ組成のアミノ酸に置き換えた上で、アミノ酸の一種であるメチオニンの量を減らした餌を動物に与えるものである。これは、つまり、正に動物に「よろしくない食習慣」を取らせるものなのである。この餌を与え続けられたラットの肝臓では、わずか2日間で脂肪肝が完成し、肝細胞の死と再生(一種の「炎症」と言ってよい)および線維増生を経て、最終的に肝硬変が起こる(図1)ことに加え、これらを背景として、肝がんが発生するのである(図2)。
 このモデルは、前述の餌を与えるだけで、1─2年間以内に、ほぼ100%肝がんを発生させることができる上に、時間経過によるNASH類似病変の進行を分子レヴェルで解析したり、モデル自体に化学物質を与えていないので、その影響を無視して、NASHをコントロールできるかもしれないものの効果を解析したりできる利点があり、内外の様々な研究機関で改良を加えられつつ、長きにわたってNASHの研究に用いられている。

 

食品(成分)や食習慣の改善によって生活習慣病をコントロールする!

 前項で述べたように、このNASH動物モデルは、食品(成分)や食習慣の改善によるNASHの「分子標的制御」を目指す上で、きわめて役に立つツールである。
 実際既に、私は、ショウガ科植物や柑橘類の成分が、このモデルのNASH類似病変の進展に影響を及ぼすことを見出した。
 私たちは、こうした研究成果を基に、さらに広い範囲の食品(成分)や食習慣の改善を対象として、研究を進めていく予定である。また、私たちは、現在、前項で述べたNASH動物モデルをマウスに移植させつつある。それは、分子生物学的に、マウスの方が、よりいろいろと「いじれる」からである。
 私たちは、生活習慣病の克服による人類の健康増進に貢献すべく、もっともっとさまざまな方向に研究を展開していくので、読者諸兄姉におかれて、私たちの研究に興味を持っていただき、ご協力いただければ幸いである。

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