東京農業大学

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教員コラム

コンクリート舗装の活用を

2012年3月16日

地域環境科学部生産環境工学科 教授 小梁川 雅

環境と循環型社会に資するエコ技術

昨年の東日本大震災で体験したように、日本は自然災害の多い国である。この様な国土で生きていくには、常に自然と闘い、また自然と共生していかなければならない。このためには、国民の生命を守り、産業・経済活動そして社会生活を支える土木技術が不可欠である。特に震災直後の人命救助や避難、そして救援物資の輸送でも分かるとおり道路ネットワークの構築は重要である。その際、環境改善や環境型社会の構築に資するエコ技術として、コンクリート舗装の利点を考えたい。

 

95%がアスファルト舗装

昨今、無駄な道路が多いなどという議論がまことしやかに行われているが、道路がネットワークとして機能できることがまさに生命線となっていることを考えれば、この様な議論こそが無駄であろう。
道路ネットワークが存在しても、そのネットワークを利用して人や貨物を安全かつ快適に移動させるためには、舗装が必要である。現在主流となっている舗装種別にはアスファルト系とコンクリート系の2種類があるが、道路の場合その約95%がアスファルト系の材料によって舗装されている。
アスファルト舗装は、表層(路面)を原油から抽出されるアスファルトを、バインダー(糊)としたアスファルト混合物によって構築された舗装である。アスファルトは180℃程度に加熱することにより流動性を持つため施工できるが、常温では固体化して硬い表層を形成する。従って早期交通開放(夜間施工を行い翌朝には車が通れる)が可能である事が大きな特徴であり、また原油から軽質油や重質油などを抽出した残渣であることから価格が安価であったことから普及してきた。
一方で、コンクリート舗装は表層をコンクリートで構築する舗装であるが、コンクリートが固まるまでに標準で28日の養生が必要であること、初期建設コストがアスファルトに比較して高いことなどから、敬遠されてきた。しかし諸外国におけるコンクリート舗装の割合は、アメリカ30%、イギリス20%、フランス15%、ベルギー40%であり、日本の舗装種別選択は非常に偏っていると言わざるを得ない。

 

長持ちするコンクリート

実はコンクリート舗装には、耐久性、経済性、環境の面から大きな長所がある。アスファルト舗装はわだち掘れが出来やすいため、通常5から10年に一度は表層を取り替える必要がある。さらにアスファルトは原油由来の有機材料であるため、紫外線の影響や酸化作用を受け経年劣化(老化)を生じる。従って交通量が少なくわだち掘れが生じにくい道路であっても、アスファルトは自然と劣化し、路面に損傷が生じてしまう。
これに対してコンクリート舗装はわだち掘れが出来にくく、コンクリートの強度が高いため耐久性が大きく、また舗装の性能に影響を与えるような経年劣化もない。従って長期にわたって補修なしで供用することが出来る。現在供用されているコンクリート舗装の中には、供用年数が50年、60年を超えるものもある。
この様に長寿命であることから、建設費と維持修繕補修費を合わせたいわゆるライフサイクルコストで見ると、アスファルト舗装より安くなることが判ってきた。同路線上のアスファルト舗装とコンクリート舗装を比較した場合、アスファルト舗装では補修が繰り返されるため、初期建設コストが安くても最終的にはコンクリート舗装の2〜3倍のライフサイクルコストとなっている例もある。さらに最近ではアスファルトの価格が上昇しており初期建設費の差が500/㎡程度になってきたため、両者のライフサイクルコストはさらに差が大きくなる可能性がある。
アスファルトは原油由来の材料であるため、その価格は原油価格の影響を受ける。2009年のオイルショック時には、対2000年価格で実に4倍となった。また最近では技術が向上したため、原油精製残渣は舗装用アスファルトには使用できず、石油会社は舗装用アスファルトをわざわざ製造していることも価格上昇の一因となっており、その供給量も懸念されるようになった。もはやアスファルトは安価で安定した材料とは言えなくなってきている。

 

ヒートアイランド現象も低減

コンクリート舗装が長寿命であることは、補修回数や再舗装の回数が減ることから、建設に伴う環境負荷を軽減し、省資源、省エネルギーの観点からも環境改善に貢献できる舗装である。またコンクリート舗装は、路面が明るく反射率が高いことから舗装体への蓄熱が少ないため、ヒートアイランド現象の低減にも効果がある。夏季のコンクリート舗装の路面温度は、アスファルト舗装に比較して10℃程度低くなることが判っている。ヒートアイランド現象と舗装の因果関係は定量的には明らかとなっていないが、例えば東京23区内の舗装面積は全面積の30%を占めることから、一定の効果があることは十分考えられる。さらに路面反射率が高いことは、トンネル内の照明設備の低減と消費エネルギーの削減にも効果がある。
コンクリートはセメントと水、砕石と砂を混ぜ合わせて製造することはご存知と思うが、皆さんは、コンクリートを製造する際に不可欠なセメントが、環境負荷軽減と循環型社会構築に大きな役割を果たしていることをご存知だろうか。セメントは石灰石や粘土を主原料に、1850℃の高温下で製造される。実はその主原料代替や補助燃料として多種多量の産業廃棄物・産業副産物を消費している。主な受け入れ先をあげれば、自動車、鉄鋼、製紙、食品、化学業界などがあり、農業からも使用済みビニールハウスなどの廃プラスチックを受け入れている。また下水汚泥、浄水汚泥、ゴミ焼却灰なども地方自治体から受け入れている。現在の技術では1tのセメントを製造するのに約450kgの廃棄物・副産物を消費しており、日本全体では年間約1800万〜2000万tを最終処分場に送ることなく利用している。そしてセメント産業自体は廃棄物・副産物をほとんど出さない。原料はほぼ全てセメントに変えられるのである。もしセメント生産量が激減したり、セメント工場が閉鎖されると、我々の生活にも大きな影響が出ることになるのである。実は我々の生活や環境はセメントに支えられており、コンクリートを使うことが循環型社会構築には欠かせないことなのである。さらにセメントは数少ない自給可能な資源であることからも、持続可能な社会を構築するためにはその活用を十分に行わなければならない。この様な観点からも、コンクリート舗装の比率が増加することが望まれる。

 

ライフラインの整備を

以上のように、コンクリート舗装はインフラ整備に貢献できるばかりでなく、環境改善・循環型社会構築に大きく寄与できる構造物であるが、どの様な道路にも適用できるわけではない。例えば都市内では、道路の地下空間に上下水道・ガス・電気などのライフラインが埋設されており、これらに伴う工事が頻繁に行われる。これは占用工事と呼ばれ、実は道路工事の80%が占用工事である。従ってこれらのライフラインをまとめた共同溝が整備されないと、都市内ではコンクリート舗装の適用は難しい。名古屋市などは共同溝の整備が進んでいるので、市内に多くのコンクリート舗装が見られる。
今後は、コンクリート舗装の特徴を理解した上で、効果的な適用先を選択し、道路という重要なインフラを最大限効率的に構築できるような舗装種別の選択を行うことが重要である。

 

写真-1 都市内のコンクリート舗装
写真-2 バイパスのコンクリート舗装


 

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