東京農業大学

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教員コラム

「エゾシカ学」で社会に貢献

2010年10月18日

生物産業学部生物生産学科 教授 増子 孝義

3年間の現代GPを終えて

東京農大生物産業学部(オホーツクキャンパス)では、2007年度から3年間、独自の教育プログラム「エゾシカ学」を展開してきた。文科省の「現代的教育ニーズ取組み支援プログラム(現代GP)」に選定されたもので、エゾシカを北海道の貴重な地域資源として活用、関連産業の発展を支援することを主な目的とした。様々な関係機関と緊密に連携して行ったこのプログラムの成果を報告する。

 

文理融合の取り組み

「エゾシカ学」は、北海道の関係者がこれまでに築いた蓄積を基に多角的な視野で構築された。自然科学系と社会科学系の知見が組み込まれ、文理融合による幅広い取り組みをめざした。エゾシカを一つの地域資源とした有効活用モデルと捉え、地域活性化に貢献できる人材育成に活用できるのではないかと考えた。学生だけではなくて、市民の方も多数参加した。

エゾシカについて、北海道だけで勉強しても限界がある。シカ産業の先進地である中国とニュージーランドへ出向いた。それぞれの地で得た情報も「エゾシカ学」に取り入れた。

 

エゾシカ肉の商品化

実習は斜里町ウトロに近い知床エゾシカファームで実施した。苦境にある建設業者がソフトランディングのために副業として始めた牧場だ。シカの解体処理の見学実習と、ここで生産されたシカ肉を使って、ソーセージをつくる実習を行った。この実習がシカ肉ソーセージの商品化に結実した。

北海道のシカ産業の創出のために何が必要かを議論するワークショップも催した。肉、皮、角の製品の開発の必要性、商品化に向けてのプロセス、販売戦略などを語り合った。その大きな成果として、日本食研の技術指導によるエゾシカ肉の商品化が挙げられる。大手食品メーカーがエゾシカ肉の製品開発や販売を指導したのは初めてだった。さらに、エゾシカの生体捕獲技術の向上は、シカ牧場経営の安定に欠かせない。新たな生体捕獲技術として犬の活用に着手した。

 

セーム革による産業モデル

肉以外に皮の活用も検討された。皮は、戦国時代から武士の鎧のパーツとして活用されたが、現在はバッグや靴の試作品がみられる程度で、ほとんど活用されていない。

そこで、皮の早急な商品開発が必要だと考えた。試行錯誤の結果、エゾシカ皮を活用したセーム革が誕生した。エゾシカ原皮の有効活用は、一つの産業モデルとして大きな意味がある。それは、これまで廃棄処理し、環境負荷をかけていたものに新たな価値を生み出したからである。そのプロセスは活きた教材になったことと思う。東京農大、北海道猟友会、奈良県毛皮革広報協同組合の3者で皮を回収し、なめし、商品をつくり、販売するためのNPO法人北海道自然資源活用機構を設立し、社会活動をしようとしている。

 

ドッグフードによる産業モデル

廃棄されているものの一つに内臓がある。内臓をドッグフードに活用しているドッグライフと知床エゾシカファームに「エゾシカ学」のスタッフが加わり3者で連携を進めている。エゾシカの内臓すなわち肝臓、心臓、肺、そのほか鹿鞭や腱を原料に、そのドッグフードの成分分析を行った。安全、安心なペットフードとしてニーズが高いと考えられる。エゾシカの未活用部位を有効活用した優良商品として、他社製品と差別化するためのロゴマークで東京農大との連携を表記したいと思っている。

 

シカ被害の各地と情報交換

日本のシカが生息している地域では、同じようにシカの被害に困っている。そこで長野県、滋賀県、屋久島で、「エゾシカ学」から得られた成果を中心に情報交換を行い、お互いの課題や今後の方針を話し合った。知床などとともに世界自然遺産に登録されている屋久島でも、ヤクシカの増え過ぎは深刻で、「エゾシカ学」の成果や北海道における先進事例の紹介は大変歓迎された。島内で2回も関係機関を交えた会議を開催、十分アピールすることができた。
日本のシカが生息している地域では、同じようにシカの被害に困っている。そこで長野県、滋賀県、屋久島で、「エゾシカ学」から得られた成果を中心に情報交換を行い、お互いの課題や今後の方針を話し合った。知床などとともに世界自然遺産に登録されている屋久島でも、ヤクシカの増え過ぎは深刻で、「エゾシカ学」の成果や北海道における先進事例の紹介は大変歓迎された。島内で2回も関係機関を交えた会議を開催、十分アピールすることができた。

 

都民にも「エゾシカ学」を紹介

世田谷キャンパスの「食と農」の博物館で「エゾシカ展」を約5ヵ月間開催した。開催中には毎月1回の講演会を行い、「シカ肉の成分の特性」というテーマの講演後にはシカ肉料理の試食会をした。本教育プログラムを履修していない世田谷と厚木キャンパスの学生、博物館を訪れた都民に対して「エゾシカ学」を紹介することができた。

 

「エゾシカ学」の波及効果

最後に、「エゾシカ学」の波及効果を考える。まず、自然科学系と社会科学系の学生に対して文理融合の幅広い視野を持った学生を育てることができただろうと思う。エゾシカを一つの地域資源モデルとしたが、これをほかの地域資源に置き換えて応用できることから、「エゾシカ学」を通じて地域活性化に貢献できる人材づくりにも役だったものと考える。北海道内外の多くの関係機関と連携をしてきた。それぞれ単独では発展が限られるが、捕獲、飼育、生産、加工、製品開発、販売などの幅広い分野を連携する、さらに、全体を見ることのできる人材を育成する、それができれば、北海道におけるエゾシカ産業が発展するだろうと確信する。

本事業ではいくつかの産業モデルを提案し、一部はNPO法人の設立に至った。このような組織がもっと増え、発展できればと願う。北海道におけるエゾシカ有効活用が展開され、独自のスタイルが構築されようとしている。さらなる関係者の結束が求められている。

これまで「エゾシカ学」にご支援、ご協力いただいた多くの講師、関係者、関係機関、スタッフに心から感謝したい。

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