東京農業大学

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教員コラム

地域活性化の推進力を育む

2010年10月15日

生物産業学部産業経営学科 教授 黒瀧 秀久

現代GP「オホーツク学の展開」

北海道網走市の東京農大生物産業学部(オホーツクキャンパス)による研究・教育プログラム「地域連携によるオホーツク学の展開」は、文科省支援事業(現代GP)として3年半の事業期間を終えた。その成果を報告する。

 

「実学センター」を拠点に

本学部が立地する道東のオホーツク地域は、農林水産業から加工・流通業まで、個々の生物産業のポテンシャルは高いものの、地域全体の活性化を推進する総合力が弱いと考えられる。そこで、本学部では、生物産業を核として地域活性化やオホーツク海圏・知床を含めた環境共生型社会を実現するための教育と研究活動を総称して「オホーツク学」として位置付け、取り組みの拠点として、学内の生物資源開発研究所に「オホーツク実学センター」を設置した。

その展開は平成17年10月、文科省の現代GP(現代的教育ニーズ取組プログラム)に採択され、平成21年3月まで実施された。この間、自治体・産業界・生産者・消費者との連携、さらには教職員と学生による学内横断的な連携によるコンソーシアムが形成された。

 

5つの理念で現場に学ぶ

東京農大は「実学主義」を教育理念としている。本取り組みでは、図1に示す5つの理念を掲げ、社会経験や現場経験に重点をおいた。学生が現場から主体的に問題や課題を見つけ、市民参画によるプログラムとすることで、大学と地域で問題意識を共有し、課題解決に向けたアイデアや創造力を育むねらいとして「実学教育プログラム」と銘打った教育プログラムを展開した。

 

3類型のプログラム編成

実学教育プログラム「オホーツク学」は、3類型のプログラム体系として実施された。第・類型は、各学科の1・2年次で修得するベーシックプログラム。第・類型は、同様に1・2年次で修得する学際的プログラムで、既存の学部共通科目を「北海道学のススメ」、「オホーツクの実学」と銘打ち、自然や文化、環境や資源管理、地域ビジネスといった幅広い分野を学ぶ。第・類型は、具体的な地域課題に即応したプログラム(A〜Eの5クラス)で、3年次で修得する。この3類型のプログラムを経ることで、基礎的な学習からはじめ、それをいったん融合化・総合化したうえで、現実的な地域の具体的課題を深く掘り下げるという段階的に発展するプロセスを構築している。

この取組の目玉となる第・類型プログラムは、Aクラス「環オホーツク海圏広域交流教育プログラム」、Bクラス「知床世界自然遺産エコシステムマネージメント教育プログラム」、Cクラス「流域生態系連携活性化教育プログラム」、Dクラス「新規就農ビジネス教育プログラム」、Eクラス「エコ・グリーン・マリン・ツーリズム教育プログラム」のなかから、学生がいずれかを選択する方式とした。いずれもオホーツクの大地をフィールドにした体験型の教育プログラムであり、環境共生型社会を目指した地域経済・産業の活性化、ビジネスモデルなどを現場から学びとり、問題解決能力や創造性を育む内容となった。

 

「オホーツク食農士」の称号も

この結果、3年次の第・類型プログラムの受講者数は3年間で155名を数え、卒業時に授与される修了証の授与率は86.6%と高いものであった。さらに一般社会人の受講は9名であった。フィールドを重視し少人数によるチュートリアル教育で質を高める目的から、各クラスの定員は10〜15名程度に設定した。全体としては毎年50名前後の受講生をコンスタントに確保し、当初目標を概ね達成することができた。プログラムの修了者には各クラスで考案した称号(オホーツク食農士など)を修了証として卒業時に発行した。

毎年、実践的課題に対する「総括フォーラム」や「実学市民公開講座(シンポジウム)」を一般公開で開催した。各クラスの受講生代表が多くの学生や一般市民を前に、プログラムの取組内容や得られた成果や提案について報告を行った。この実践的課題に対するディスカッションを重ねることで、一般参加者や学生との間に課題を共有化することができ、コンソーシアム形成を助長するものとなった。

各クラスでも受講生一人一人が成果報告会を行っている。この過程で受講学生のプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力を高めることができ、問題解決能力を身に付けられるような人材養成を達成できたと考えている。

 

主体的な研究活動の意欲向上

本取組に対して在学生のアンケート(有効回答数670名)を実施したところ、「現場での実習など体験型の学習ができる」49.2%、「興味のある分野を専門的に学ぶことができる」39.2%、「地域社会に密着した内容の授業を受けることができる」37.1%の順に高かった。また、受講学生のレポートでは、「北海道の自然が身近で見られる今の環境を維持し、さらに自分の力で今後こういった事業に貢献できたらいい」、「今まで見えなかったものが見えてくる楽しさや発表の緊張感などの経験を卒業論文や就職活動にいかしたい」、「様々な知識を得ることができ、自分の視野が広がった」などが寄せられ、本取組による教育プログラムの実施により、学生が主体的に学ぼうとする意欲の向上が見られ、今後の研究活動に対する動機付けにも大いに効果的であったと考える。

また、本取組に対して外部コンソーシアム委員として運営に携わった自治体や地域の方々からは「学術研究として地域(住民)と係われたことは地域振興の観点からも評価される」、「大学が無形の“地域資源”創出として、今後もこのような活動を続けられることを期待している」、「シンポジウムの準備は大変だったが今後の地域の観光産業の進むべき方向性を提言できた」、「フォーラムで発表した学生がツーリズムに関心を示し卒論のテーマとしているところは成果と言える」などのコメントを寄せていただいた。

実施期間中の成果としてシリーズで発行したオホーツク実学叢書・〜・は、マスコミを通じて一般市民向けに数量限定で配布をPRしたところ、当初予定を上回る希望者があった。地域産業振興に対する市民の関心が高いことを裏付けた。

 

さらなる地域との連携を

事業期間終了後の平成21年度も、予算規模を縮小しながら継続的に学生向けの実学教育プログラム「オホーツク学」を実施している。これまで大学が取り組んできた環オホーツク海圏に関する国際的な生物資源に関する調査研究、研究交流が行われている。

平成22年度の新カリキュラムには、新たに学部創生型科目「オホーツク学」を設置する予定であり、「現代GP」の成果をいかした教育研究へと発展することが望まれている。

また、オホーツク実学センターでは、学生向けの教育プログラムのみならず、社会人の人材育成に向けた教育プログラムの開発にも着手しており(平成21年度 科学技術振興調整費「地域再生人材創出拠点の形成」)、網走市をはじめとした地元との産官学連携をよりいっそう深めながら、生物産業の活性化を目指したコンソーシアム形成の基盤を強化していきたいと考えている。

 

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