東京農業大学

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教員コラム

純植物性液体飲料(暁酵素)

2015年1月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(9)

製造工程に用いる原材料の工夫でさらなる機能性効果発現への期待

 近年、食生活の多様性や美食ブームから一定年齢に達すると肥満化する傾向にあります。また我が国は、高齢社会やストレス社会での問題が山積しており、加齢や生活習慣に関わる疾患がさらに増加することが予測されます。生活習慣病の中でも高血圧症や脂質異常症は、肥満や運動不足から増加する傾向にあります。筆者の林産化学研究室と暁酵素産業株式会社では、生活習慣病の予防や治療の観点から野菜を主原料とした発酵食品の共同研究開発を実施してきました。これまでの研究成果から誕生した「暁酵素」は、製造原料に大量の生鮮野菜を使用します。すなわち暁酵素は、旬の野菜、果物、海草、穀物および特用林産物(例えば、キャベツ、ホウレンソウ、ニンジン、大根、イモ、ショウガ、リンゴ、ミカン、パイナップル、キウイ、バナナ、米、麦、マンネンタケ、カワラタケ)を原材料に用います。それらの作物を洗浄後、攪拌しやすい大きさに刻んで木桶に入れ、酵母(Shizosaccharomyces sp.)とショ糖、麦芽糖(糖度が30〜40%となるように)を添加し、浸透圧による細胞膨圧作用によって原材料の細胞壁中の成分を抽出します。次に特許製法によって熟成発酵させ、原液をろ過、滅菌処理して製造するのです。製品の一般成分および機能性成分は食品公定分析法に基づいて定量、製品の血小板凝集抑制、リパーゼ阻害活性、ケモカイン遺伝子発現抑制およびACE阻害活性などの機能性解析も実施しました。
 暁酵素は、製造工程からもわかるように炭水化物含有量が約56%と高値です。主に含有される糖は、暁酵素100g中にフルクトース17.5g、グルコース6.3g、スクロース2.2gなどと糖質を多く含有しています。しかしながら、前臨床、ヒト試験において血糖値の上昇には影響を及ぼさないことが特徴として確認されました。また、発酵によって産生されるリンゴ酸やクエン酸などの有機酸および作物由来の微量ミネラルも含有されることがわかっています。
 暁酵素の効果としては、培養細胞試験において血小板凝集抑制効果、リパーゼ阻害活性効果、ケモカイン遺伝子発現抑制効果が確認されるとともに、前臨床試験において高血圧の改善、肥満・脂質代謝異常症の改善などが確認されました。
 製造工程でマンネンタケやカワラタケの子実体を添加した製造試験では、上述した機能性に関する効果か高くなることもわかりました。特に、ADPを惹起剤として用いた血小板凝集抑制効果は、マンネンタケで18.9%、カワラタケで23.6%上昇しました。成分としては、マンネンタケやカワラタケに起因するアミノ酸(グルタミン酸、アルギニン、アラニン、オルニチン、γ─アミノ酪酸など)やカリウムなどが顕著に増加することなども確認しています。マンネンタケ子実体のみの抽出物では苦味が強く製品として改良が必要になることが多いのですが、暁酵素の利用によってその苦味は問題ない製品として加工されることも興味深い試験結果です。発酵技術と素材との組み合わせによる新規の植物性酵素飲料の開発にも期待が寄せられます。

写真1 ‌植物性複合酵素「暁酵素」
写真2 製品製造のための原材料の一例
写真3 桶内での発酵によって野菜から浸出した液状組成物が熟成される

 

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