東京農業大学

メニュー

教員コラム

ハタケシメジ顆粒

2014年9月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(5)

脂質異常症の改善・免疫調節作用を確認

 ハタケシメジは、キシメジ科シメジ属に分類され、春から秋にかけて北半球の温帯域の林内、林道端および庭などに発生するきのこです。地中に埋もれた木を栄養源として生育します。きのこの言い伝えの中には、「香りマツタケ味シメジ」といった言葉もあるくらいです。ハタケシメジの人工栽培が開始された当初は、ホンシメジの代替種としての考えもあったようです。しかし、ハタケシメジの特性として、味にくせがなく、きのこらしいシャキシャキ感による歯ごたえから、ハタケシメジそのものの特性を好む傾向が増加してきました。
 近年ハタケシメジは、機能性に関する解析の結果、生活習慣病の予防と改善および癌細胞の増殖抑制効果も科学的に検証され、公設試験研究機関、民間の研究所、大学などにおいても効率的生産手法の研究開発が行われています。
 筆者は、群馬県林業試験場との共同研究によってバーク堆肥の菌床培地から発生したきのこに高い機能性があることを見出しました。群馬県が保有するハタケシメジ(写真1)の菌株の中から栽培法が確立されている群馬県の種苗登録株:GLD─21を加工食品として動物試験を実施したところ、脂質異常症に対する高い効果があることを確認しました。その結果をもとにヒト飲食試験を実施しました。
 ハタケシメジ乾燥粉末を熱水で抽出する方法を主として筆者らの試験によって開発した製法で粉末にしたものを押出し造粒機で顆粒化し、2.5gのスティック包を作製しました。1日1包ずつ飲食してもらい、飲食前、飲食1カ月後、飲食3カ月後にそれぞれ血液検査を行いました。ハタケシメジ顆粒を飲食することにより、善玉コレステロールは増加し、中性脂肪、β─リポタンパク、総コレステロールおよび悪玉コレステロールの減少を確認しました。
 食品などの飲食による免疫系への影響は、血液分析を行うことによって解析することができます。免疫細胞の中でも免疫賦活効果の評価対象となるT細胞、B細胞およびNK細胞について検査を実施し、その挙動から免疫への影響を調べました。
 その結果、上述したリンパ球は、ハタケシメジ顆粒を飲食することにより、正常範囲内で増多することが確認されました。ハタケシメジ顆粒は、ナチュナルキラー細胞(NK細胞)を増多することから、腫瘍細胞やウイルス感染細胞を障害する能力を保持することが示唆されました。なお、NK細胞の増多などの所見がみられると時として膠原病などの自己免疫疾患などに罹患した方の飲食に疑問が及ぶことがあります。ハタケシメジの飲食による自己免疫性疾患のモデル動物を用いた試験も行っていますが、自己免疫性疾患によって産生されるインターロイキン(IL)─1βやIL─6などはハタケシメジの飲食によって産生抑制されることも確認しています。すなわち、ヒトに対しての免疫調節作用を持つことが確認されました。なお、ハタケシメジはサプリメントとしてのみならず写真2のようなきのこの食感を味わえるような料理としても食していただきたいと思います。

 

ページの先頭へ

受験生の方