東京農業大学

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教員コラム

クロスタニン健康100歳

2014年6月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(3)

夢だったカワラタケを主原料にした製品開発

 私ときのことの出会いは高校3年生の時です。文芸評論家として活動していた父が胃癌と診断され、多臓器転移により十二指腸、膵臓尾部、脾臓と24カ所のリンパ節を切除・摘出する大手術をしました。手術の後、医師から説明がありました。私は高校生ながら副作用の強い抗癌剤投与や放射線照射が提案されると覚悟しました。しかし、医師からは術後治療として免疫賦活剤であるカワラタケ菌糸体から抽出された成分で作られた医薬品"クレスチン"投与が提案されました。多臓器転移の末期癌なので手の施しようがなくて、きのこの投与なのかと考えました。私が父はそんなに悪いのでしょうかと医師に尋ねると、「お父さんの癌は手術で全て取り除いたので再発をさせないことが最も大切だよ!」と説明してくれたのです。きのこがそんな重篤な癌に効果を発揮するのかといった疑問解決と"きのこの持つ力"を自分の手と目で確認したくて、私は、きのこ研究を実施している東京農業大学に進学したのです。
 入学してすぐに林産化学研究室主任の檜垣宮都先生に「きのこと癌に関する研究」をさせてくださいと頼んだところ、「江口君よ、きのこの薬効研究をするなら品種のこと、栽培のことをまず学びなさい!」と一喝され、私は、きのこの新品種を作り出す細胞融合による育種研究からスタートしたのです。今の私には檜垣先生の言葉が十分理解できるのです。すなわち薬理効果の研究をきのこで行うためには、「氏素姓のはっきりした品種をどんな培地で作るか」が、安定した効果を最大限に引き出すことにつながるからです。
 私が東京農業大学から授与していただいた博士の学位は、きのこの細胞融合による雑種作出の成果によるものです。私は、父が医薬品として処方されたカワラタケは癌細胞を壊死・アポトーシス死させる効果を持つとともに、抽出された成分を飲用することで免疫細胞の中でも癌細胞を攻撃するタイプのT細胞やNK細胞の血中百分率を増加させることを確認しています。そんなカワラタケ子実体からの抽出物質を機能性食品として開発したいとの考えを持って研究をしてきたのです。
 今から十数年前のことです。私は、きのこや天然物を利用して機能性食品を開発している株式会社日健総本社の森伸夫社長とめぐり会い、社有林へ案内されました。そこで、はじめに目にしたきのこがカワラタケだったのです。その社有林からカワラタケ数種を持ち帰り、大学院時代に習得したきのこの育種技術を駆使して8360の交配株から生産性、機能性の優れたカワラタケの新品種を作出したのです。
 育種に成功したカワラタケは、株式会社日健総本社の創始者の名である"タナカヨシホ株"と命名しました。現在、クロスタニン田中記念きのこの森で大量生産が実施され、カワラタケ子実体から抽出された糖タンパク複合体と微細藻類のクロレラ抽出物やドナリエラを配合した"クロスタニン健康100歳"が開発されました。この製品は、培養細胞レベル、動物試験、ヒト試験などを実施しエビデンスを構築した機能性食品として販売されています。
 父が癌で闘病した時に利用したカワラタケで、「誰もが医師の処方なしに利用できる商品を開発したい」という大学生時代の夢が実現したのです。
 現在、東京農業大学と株式会社日健総本社は共同研究を締結し更なる実学研究の成果を得るための研究を推進しています。

 

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