東京農業大学

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教員コラム

デンプンはブドウ糖うるち米ともち米

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

世界中のほとんどの民族は、米、麦、トウモロコシ、あるいはイモ類などを主食としています。ご存知のように、これら穀物の主成分がデンプンです。我々の生命活動を担っている約60兆個の細胞の活動エネルギーのほとんどは、ブドウ糖を利用して生み出されています。それ故、生きていく為には常にブドウ糖を供給し続けていかなければなりません。デンプンはブドウ糖の集合体ですから、エネルギーの供給源として最も優れた物質なのです。デンプンは、ブドウ糖が鎖のように多数つながった構造をしていて、無味、無臭、粒紛状の結晶物質です。ブドウ糖のつながり方の違いにより2つのタイプがあり、直鎖状につながったタイプをアミロース、ところどころ枝分かれしながらつながっているタイプをアミロペクチンといいます。この構造と含量の違いにより、デンプンの性質がかなり異なっています。わかりやすい例は、うるち米ともち米です。うるち米デンプンは、アミロース約20%、アミロペクチン約80%の比率ですが、もち米デンプンはアミロペクチン100%です。つまり、お米の粘りと柔らかさは、アミロペクチンに由来しています。日本人はしっとりと粘りのあるご飯が好きですから、アミロース含量の割合が低いお米が望まれます。ちなみに、新潟産コシヒカリのアミロースの割合は16〜17%、パサパサして硬い米のアミロースの割合は22〜23%位です。なお、デンプンは、穀物の種類や品種、気象条件等により、アミロースとアミロペクチンの含有比率や粒形、性質が異なっています。当然、加工特性も異なりますので、用途も様々です。それらの話は次号以降に。

ところで、食べたお米(デンプン)は体の中で、どのようにしてブドウ糖まで分解され、細胞に送られるのでしょうか?デンプンは、まず口の中で唾液と混ざり、胃に送られます。唾液にはデンプン分解酵素(アミラーゼ)が含まれていて、デンプンの長い鎖は不規則に切断され、短い鎖となります。次に、この分解物は、十二指腸に送られ、そこで膵臓から送られた膵液と混ざります。膵液にも唾液とは少し性質の異なるアミラーゼが含まれていて、デンプンの短い鎖を更に切断して、主にブドウ糖が2個つながったマルトースとよぶ物質にします。このマルトースは、小腸に送られ、腸液中のマルトースを分解する酵素(α─グルコシダーゼ)により、すべてブドウ糖になります。このブドウ糖が腸壁から吸収され、血液中に入り、体中の細胞へと送られているのです。しかし、我々は、空腹状態や飢えのときもあります。その時は、肝臓が、エネルギー源として蓄えている物質から新たにブドウ糖をつくりだし、血液中に放出しています。それ故、食生活の状況により、血液中には小腸から吸収されるブドウ糖1)と、肝臓から放出されるブドウ糖が共存しているのです。この両者のブドウ糖を加えた濃度の値が血糖値です。血糖値は、通常は、非常に狭い範囲内で一定となるよう、膵臓にあるランゲルハンス島とよぶ細胞組織から分泌されるホルモン(インシュリン)により調節されています。しかし、この調節が様々な要因で出来なくなれば、血液中のブドウ糖濃度の上昇が続き、糖尿病ということになるのです。

飲みすぎ、食べすぎは、万病の元。伊達政宗の家訓に「仁に過ぐれば弱くなる、義に過ぐれば固くなる、礼に過ぐればへつらいとなる、智に過ぐれば嘘を吐く、信に過ぐれば損をする」ともありますが、一つや二つは過ぎたるも魅力的と思ってしまうのですが…。次号デンプンにつづく。

 

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