東京農業大学

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教員コラム

金はどこから日本は金埋蔵量世界一

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

中学、高校時代に、だれでも必ず目にしたことのある周期表では、金は元素記号Au、原子番号79と表記されています。このAuはラテン語で、光り輝くもの(Aurum)に由来しています。オーラやオーロラという言葉も同一の語源です。それでは、原子番号の79はというと、それは、金の原子核の中にある陽子の個数を示しています。少し補足すると、周期表にある様々な元素の原子は、いずれもプラスの電荷をもつ原子核とマイナスの電荷をもつ電子とから構成されています。そして、原子核は陽子と中性子から成り立っています。この陽子の数は、全ての原子で各々異なっていますので、各原子の固有の性質として、原子番号として表わすことができるのです。

さて、金はどうして金色に見えるのか? ご存知のように、光の三原色は赤と緑と青です。金は、青色の光だけを吸収する性質があります。人間の目には反射された光だけが見えますので、金から反射された赤色と緑色の光が組み合わされて黄色(黄金色)に見えるのです。色あせることのない、この金色の美しい輝きと、希少価値の高さから、金は、有史以来、人間の権力の象徴、富の象徴、あこがれの物質でありつづけています。現在では、優れた電気伝導性や熱伝導性と非腐食性の特性から、工業原料としての付加価値も高くなり、益々、貴重で有用な物質となっているのです。

ところで、人間は金を作ることができるでしょうか? 金を作りたいという願いは、人類共通の夢で、中世ヨーロッパでは真剣に金を作る研究が行われていました。かの有名な錬金術です。星の数ほど多くの錬金術師が寝食を忘れて夢中に研究すればするほど、金を作ることはできないことが解かってきたのは皮肉な話です。もっともそのお陰で、化学や物理が飛躍的に発展したのは紛れもない事実です。それでは、地球上の金はどうしてできたのか? という興味が湧きます。現在のところ、完全に解明されているわけではありませんが、どうも宇宙の遠い星から運ばれてきたようです。宇宙では、様々な星の誕生や消滅が繰り返されています。寿命を迎えた星の大爆発や星同士の衝突では、様々な元素の原子核の崩壊や核融合が起こるような膨大なエネルギーが生じます。その過程で金(鉱石)が生成され、宇宙空間に放出されたようです。そして、この金鉱石が、誕生間近のドロドロに燃えていた地球に取り込まれたのではないかと考えられています。従って、金は二度と貰うことのできない宇宙からの贈り物で、残りの埋蔵量(※1)は僅か4万2,000トン程度と推定されています。ところが驚くことに、その埋蔵量の約16%に当たる6,800トンが日本に眠っているというのです(※2)。まさに埋蔵量世界第1位、しかも金山は都市、それも廃棄物の山にあるというのです。携帯電話やパソコンの電子部品に使われている微量の金を全て回収すればの話ですが…。既に回収・リサイクルの試みも始まっています。日本は廃棄物大国、金やその他の貴金属の資源大国でもあるのです。リサイクル技術の更なる発展を望むばかりです。

3月、卒業の季節です。金よりも光輝く若さと、金より貴重で高価な可能性という財産をもつ多くの生徒、学生が、新しい世界へと旅立っていきます。一度きりの人生、悔いのなきよう願いつつ、次号「銀」へつづく。

 

※1)本誌、前号参照

※2)(独立行政法人)物質・材料研究機構の試算による。

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