東京農業大学

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教員コラム

胃腸は忙しい消化酵素も多種多様

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

 我々が生きるために必要不可欠な栄養素のうち最も重要なものは、炭水化物、タンパク質、脂肪で、これを三大栄養素といいます。今回は、タンパク質はどのように分解され栄養素として利用されるのか? という話です。人の筋肉、臓器、皮膚、髪、血液、生命活動を担っている各種の酵素など、体の大部分はタンパク質で構成され、それらは常に新陳代謝を繰り返しています。つまり、古くなったタンパク質は常に新しいタンパク質に置き換えられています。勿論、体内では、古くなったタンパク質を分解し無駄にすることなく再利用していますが、一部は老廃物として排出します。従って、常に適量のタンパク質を補うことが必要で、肉、魚、卵、大豆などタンパク質を多く含む食物を摂取しなければならないのです1)。しかし、人体の細胞は、食物中のタンパク質をそのまま吸収、利用することはできないので、胃や腸では、日夜食物タンパク質の分解作業が行われているのです。

 胃に入った食物は、まず胃液と混合されます。胃液の中には、タンパク質成分だけに作用するペプシンとよばれる消化酵素が含まれています。食物中のタンパク質は、通常アミノ酸が数百〜数千個、鎖のようにつながった構造をしています。ペプシンは、その鎖のところどころを切断して、短い鎖にする力を持っています。胃で短く切断されたタンパク質は、次に十二指腸に送られ、膵臓から十二指腸に分泌された膵液と出会います。膵液中には、トリプシンとキモトリプシンというタンパク質を分解する消化酵素が含まれています。この2つの酵素が、胃から送られてきた短い鎖のタンパク質を分解し、さらに短くします。これらの分解物は、次に小腸に送られ、その吸収細胞から分泌されるぺプチダーゼとよぶタンパク質分解酵素により、最終的にアミノ酸とアミノ酸が2〜3個つながったもの(ペプチド)にまで分解されます。食物中のタンパク質は、ここまで分解されてはじめて小腸の細胞に吸収され、血液に取り込まれ、その流れにのって全身の細胞へと運ばれていくのです。各細胞では、こうして得られたアミノ酸やペプチドと、体内の古いタンパク質を分解して得られたアミノ酸やペプチドを原料に新たなタンパク質が合成されているのです。タンパク質分解酵素には、それぞれクセがあり、アミノ酸の鎖の長さや、つながる順序の違いにより反応性が大きく異なっています。従って、食物中の種々のタンパク質を最も効率よく分解するために胃腸に4種類もの酵素が存在しているのです。

 ところで、なぜタンパク質分解酵素は人体の細胞や諸器官を構成するタンパク質は分解しないのでしょうか? それは、ペプシンもトリプシンもキモトリプシンも、細胞の中で合成されたときは、タンパク質を分解できない構造となっているからです2)。つまり、働いてほしい胃腸まで運ばれたとき初めて、胃酸や別の酵素により、その一部が分解されて、食物タンパク質を分解できる酵素へと変わるのです。この精巧な仕組みの話は、いずれまた。

 炭水化物も脂肪も、タンパク質と同じように胃腸で、いろいろな消化酵素により分解、吸収され、利用されています。胃腸は偉大で忙しいのです。暴飲暴食万病のもと、腹八分目に医者いらず。でも、食欲の秋、食べたいな、飲みたいな…次号、「食欲タンパク質」につづく。

  • 1)タンパク質必要量:成人1日65〜70g。
  • 2)ペプシノーゲン、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲンといい、それが、ペプシン、トリプシン、キモトリプシンになる。

 

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