東京農業大学

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教員コラム

エネルギーのビタミン疲労回復ビタミン

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

ビタミンの3回目はB群の話。ビタミンB群の発見は、前々号に紹介したように脚気の撲滅研究により始まりました。発見当初は、ひとつのビタミンと考えられていましたが、その後、複数のビタミンが含まれていることが分かり、発見された順にB1、B2、B3…B12と表示されました。しかし、更なる研究の進展によりB4、B8、B10、B11の4種は削除され、B1,2,3,5,6,7,9,12の8種類がビタミンB群1)です。B群として、ひとまとめにされている理由は、いずれも、我々の生命活動に必要なエネルギーがつくられる過程で、よく似た働きをするからです。勿論、B群は、共通した働きの他に、それぞれ別の生理作用もあるので、独立したビタミンとしても扱われその構造と働きが明らかにされています。

ビタミンB群の代表として、欠乏すると脚気を引き起こすB1の話を少し。我々のエネルギー源である炭水化物は、胃や腸でブドウ糖まで消化された後、腸管から吸収されて体内の各器官の細胞に運ばれます。そこで、エネルギー生成回路に入り、多様な酵素の作用により種々の物質に変換、代謝され生命活動に必要なエネルギー(本誌No38,48号参照)が生み出されています。一方、B1も、食物から摂取された後、小腸の腸管壁から吸収され、脳、肝臓、腎臓、心臓など体内の重要器官の細胞内に送られます。それらの細胞内で、B1は、上述のエネルギー生成に関係する重要な酵素と結合して、その反応を促進するための補助的役目(補酵素という)を担っているのです。従って、B1が不足すると、ブドウ糖からのエネルギー生成量が減少してしまいます。その結果、だるさ、息切れ、動悸、食欲不振など、様々な症状が現われますさらに、欠乏状態が続くと、腎臓、肝臓、心臓など主要な器官に障害が生じ、末梢神経が冒されて脚気症状を呈し、死亡に至ることになるのです。なお、B1の1日あたりの必要量は、普通の生活では成人で平均0.8〜1.0・です。血中のB1濃度は通常、約0.07(・/1・血液)ですが、0.04・以下になると脚気等の症状になるとのこと。ちなみに、B1は、肉、魚、卵、豆類、緑黄色野菜などに豊富に含まれているので、普通の食生活をしていれば不足することはありませんので御安心を。

ところで、脚気は古くからある病気で、中国では隋や唐の時代に多発したといわれ、日本でも平安時代に、朝廷の貴族などに脚気症状がみられたとのこと。しかし、脚気の増加は、何といっても、白米食が一般化した江戸時代以降で、武士や庶民から多くの患者がでたと記録されています。日清戦争(明治27,28年)の頃の日本陸軍では、患者約4万人、死者約4千人、日露戦争(明治37,38年)の頃は、患者25万人、死者3万人にも上ったともいわれています。これに一般人を加えれば、日本における脚気の患者と死亡者数は膨大なものとなります。脚気が完全に根絶されたのは1952年以降2)ですから、脚気は、結核と同様、長い間日本人を苦しめてきた病気だったのです。

戦後60年、政治、経済、地域社会など様々な分野でシステム疲弊が起きているようです。精神の活力も低下して、無職、無気力、無感動の若者も増加の一途。社会のビタミン、心のビタミンが必要のようで…。次号「ビタミンC」につづく。

1)B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B3(ナイアシン)、B5(パントテン酸)、B6(ピリドキサール)、B7(ビオチン)、B9(葉酸)、B12(シアノコバラミン)
2)武田薬品がビタミンB1誘導体の工業的生産に成功した。

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