東京農業大学

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教員コラム

寿命と活性酸素活性酸素、悪役の正体

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

酸素の2回目は、最近話題の悪役、活性酸素の話。活性酸素とは、生物が酸素を利用して活動エネルギーを生成する過程で生ずる異常な酸素とその関連物質のことです。この活性酸素は、正常の酸素よりずっと反応性の高い(酸化力が強い)性質を持っています。ちょっと難しいですが、反応性の説明を少し。通常、酸素は、酸素原子(O)が2つ結合して酸素分子(O2)として存在しています。原子とは、物質を構成する最少単位の粒子のことで、それ以上小さく分けることのできない物質のことです。酸素原子は、電気的にプラスの性質を持った1つの原子核と、その周りをマイナスの性質を持った8個の電子が取り囲んだ構造をしています。電子の数と配置は各原子により異なっていますが、特に酸素原子の電子の配置と数は、とても不安定な状態になっています。そこで、まず酸素原子同士が電子のやり取りをして結びつき、より安定な酸素分子(O2)となるのです。それでも、まだ電子の配置と数が不安定なので、別の物質の電子を求めカップルになって安定した構造になろうとします。この性質が、反応性の高い理由です。活性酸素は、酸素分子より、もっと電子の配置と数が中途半端で不安定なので、所構わず、相手構わず、様々な物質と反応してしまうのです。当然、生命活動にとって重要な物質とも反応するので、正常細胞の働きにダメージを与えることになります。酸素は生命に必要不可欠な物質であると同時に危険な物質でもあるのです。

興味あるデータを一つ。動物の寿命と体重あたりの酸素消費量とは比例関係が成立するという話。例えば、ネズミの寿命は約4年、ゾウは長生きで約70年です。しかし、単位体重当たりの酸素消費量はどちらもほぼ同じとのこと。つまり、ネズミは、体重当たり1年でゾウの約17倍の酸素を利用していることになります。利用する酸素量の約2%が活性酸素になると推定されているので、一定期間に大量の酸素を利用すれば、それだけ活性酸素の発生が多く、体へのダメージが大きいことになります。その結果、寿命が短いのではないかと推察されています。生物の進化は酸素との戦いの歴史でもあるのです。

ところで、人間は1日にどのくらいの酸素を必要とするか? というと、勿論、安静時と運動時では大きく異なりますが、概ね500〜600Lといわれています。重さに換算すると750〜850g。空気に換算すると(空気の約20%が酸素)、2,500〜3,000Lもの量を、毎日、口や鼻や皮膚から取り込んでいる計算になります。当然、多量の活性酸素が発生します。最近、この活性酸素が様々な病気やガンの発生、老化や寿命に関係するという研究も数多く報告されています。当然、人は、この活性酸素に対する防御メカニズムを備えていますので、過度の心配は無用です。老化や寿命は、まだまだ解らないことばかり。活性酸素がその主原因という説も現状では1つの可能性ということです。

気がつけば12月、師走というけれど、口数の割には走り回るほどの体力がなくなってきた我身が寂しい。来年は子年。万事「チューい」が必要かも。今年も1年、ご愛読ありがとうございました。新年、次号も「酸素」につづく。

 

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