東京農業大学

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教員コラム

酸素が先か? 水が先か?酸素は微生物と植物から

2010年8月2日

東京農業大学短期大学部 醸造学科 教授
醸造学科食品微生物学研究室
前副学長
中西 載慶
主な共著:
『インターネットが教える日本人の食卓』東京農大出版会、『食品製造』・『微生物基礎』実教出版など

生命にとって最も重要な物質といえば、酸素と水。水(H2O)は酸素(O2)と水素(H2)の反応で生じますから、まさに酸素は生命の根源です。酸素は、無色、無臭で、通常は気体として空気中に21%含まれていますが、−183℃の超低温にすると綺麗なライトブルーの液体となります。酸素はとても反応性が高く、ほとんどの元素と化合物をつくるので、岩石や有機物中にも多量に含まれていて、地球上で最も多く存在する物質の1つです。酸素は、地球の歴史、生物の生命活動と進化の歴史を語るには避けて通れない最重要物質ですから、まず、その誕生の話から。

地球は、今から約46億年前に、他の太陽系の惑星とともに誕生したと考えられています。原始地球の大気の主成分は炭酸ガスで、酸素は存在しなかったようです。従って、約40億年前に、地球の海中で最初に登場した生命体は、酸素を必要としない細菌(嫌気性微生物)でした。その後、炭酸ガスと太陽光から光合成により酸素を放出するラン藻類という微生物が大量に出現して、海中や大気中には多くの酸素が存在するようになりました。大気中の酸素は上空で一部がオゾン(O3)となりオゾン層1)が形成されました。実は、このオゾン層こそが生物の進化と多様化に深く関係しているのです。太陽から地球上に直接降り注ぐ紫外線は、強烈な反応性と殺菌力があり有害ですから、微生物でも生きることができません。しかし、オゾン層で紫外線の多くが吸収されるようになった結果、微生物は海にも陸にも住むことができるようになったのです。やがて、酸素を有効に利用できる微生物(好気性微生物)の出現とその種類の増加により、多細胞微生物も出現し、植物、動物へと進化したのです。植物の出現により酸素量は増加し、生物は、酸素の有無、環境の変化に対応しつつ繁栄と滅亡を繰り返しながら現在に至っているのです。好気性微生物と嫌気性微生物の違いは何か? 生物はどのようにして酸素を利用するシステムを獲得したか?酸素は生体内で、どんな役割と働きをしているか? それらの話は次号以降に。

ところで、水は酸素と水素からできるのに、地球上に酸素が存在する前に、海(水)があったというのは矛盾しているのでは? と思った方がいるかもしれません。その説明を少し。原始地球には多くの隕石(微惑星)が衝突しました。その隕石には水分が含まれていて、衝突と同時に地球の高温により水蒸気となって大気中に存在したと考えられています。やがて、地球が冷え始めると、この水蒸気は雨となって地表に降り注ぎ、海が形成されたと推定されています。ですから、地球では水が先で、酸素が後でも不思議ではないことになります。鶏の卵が先か? 鶏が先か? よりはすっきりしているかも。

晩秋の夜長、地球誕生46億年、微生物誕生40億年、人類誕生400万年の悠久の歴史と神秘に思いを馳せるのはいかが。科学にも夢とロマンはいっぱい。子供たちの理科離れが進まぬよう努力するのも我々の務めかもしれません。酸素の話、話題は尽きません。次号「酸素」につづく

 

1)酸素原子3つで構成されるオゾンからなり、地上10〜50・上空の成層圏にある。

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