東京農業大学

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東京農業大学の研究活動

炭素・窒素・硫黄・水素・窒素安定同位体比分析計

これが相棒です!

第5回

 地球上の全てのものを構成する最小の微粒子を原子といい、そのうち、化学的性質は同じでも重さが少しだけ違う(原子番号は同じで質量数だけが異なる)原子のことを同位体と呼ぶ。同位体の存在比率の差異を分析することで、その物質の起源、変遷を知ることができる。国際食料情報学部国際農業開発学科の中西康博教授は、この炭素・窒素・硫黄・水素・窒素安定同位体比分析計で、マングローブが果たしている幅広い機能を解明しようとしている。

 マングローブは熱帯や亜熱帯の淡水と海水の混ざり合う汽水域に生育している植物の総称で、日本では沖縄本島、久米島、宮古島、石垣島、西表島などにその群落がある。南西諸島の陸、海岸、海と連なる領域の生態系を鳥かん的に研究している中西教授がマングローブに注目したのは、小鳥や小魚を引き寄せ「生命のゆりかご」とも言われ、生態系の中で大きな役割を果たしているだけでなく、津波や高潮などからの減災効果もあるためだ。しかしマングローブは、近年、エビ養殖池や干拓して農用地へ転用するためなどで伐採され、世界各地で消滅している。また、インド洋にあるモーリシャスの沖合で日本の貨物船が起こした座礁事故で流出した重油がマングローブに付着し、保全のための対応が迫られている。

 中西教授は、マングローブの吸収する水が、海水、河川水、雨水、地下水のいずれに由来するものか、同位体分析計を使って解明しようとしている。「人間にとっても、自然界にとっても有用なマングローブ林を修復するためには、植林技術の向上も重要です。水をどこから得ているかが分かれば、植林する適地を探る大きな手がかりになるはずです」

 また、中西教授はマングローブが海洋生産性を高めていると考えている。「森が海を育てる」という言葉がある通り、森の有機物が微生物によって分解され、栄養分となり、川を通じて海に流れ、プランクトンを育てる。中西教授はさらに土中の鉄分が、カニなどの植食性動物のたすけをかりながら,マングローブ林から海に供給され、そのことで植物プランクトンが増えることにより、食物連鎖が展開されているのではないかと見ている。さらに、河口域のマングローブは富栄養化した河川水や地下水を浄化している可能性があり、マングローブが吸収している窒素の由来も同位体分析計を使って調査中だ。

 「2050年の世界人口は100億人に達するという予測もあり、必要な食料を陸域だけでまかなうことは到底、不可能。海域での生産性も高めていくことが急務になっています。マングローブの研究を通じてその課題に寄与していきたい」

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