東京農業大学

メニュー

ニュースリリース

研究成果(共同)「日本新産となる植物「ナントウウリクサ」を沖縄県石垣島で発見」 | 地域創成科学科 武生 雅明 教授ら

2025年12月3日

教育・学術

日本新産となる植物「ナントウウリクサ」を沖縄県石垣島で発見

研究趣旨等

● 沖縄県石垣島の草地で発見した植物が、これまで台湾・中国南部・ベトナム・ラオスにだけ知られていたアゼナ科ハナウリクサ属のナントウウリクサ(Torenia benthamiana Hance) であることを明らかにし、日本新産植物として報告しました。
● 今回の発見により、国内に自生するハナウリクサ属の植物が4種に増えたため、その4種の識別点や特徴を整理しました。
● 石垣島に残された二次草地が生物多様性保全上、重要な生態系であることを示唆する成果です。

研究内容

概要
鹿児島大学大学院理工学研究科 山崎海都 博士課程学生、自然環境研究センター 森脇大樹 主任研究員、中央大学理工学研究所 中島一豪 客員研究員、広島大学大学院先進理工系科学研究科 駒田夏生 助教、東京農業大学地域環境科学部 武生雅明 教授らの研究グループは、沖縄県石垣島の放牧地や水田畦畔といった人間の営みによって維持、利用されている草原(二次草地)を対象とした網羅的な植物相調査を行っています。その過程で採取した植物のひとつがナントウウリクサ(Torenia benthamiana Hance, アゼナ科ハナウリクサ属)であることを明らかにしました。本種の日本からの記録はこれが初めてです。

種の特徴など
アゼナ科ハナウリクサ属のナントウウリクサは、茎・葉・萼に密生する毛が特徴です。この形態的特徴により、日本の既知のハナウリクサ属3種(ウリクサ、ツルウリクサ、ゲンジバナ)と明確に区別されます。これまで知られているナントウウリクサの分布域は台湾北部、中国南部、ベトナム、ラオスに限られていました。台湾では「絶滅危惧Ⅱ類」に指定されており、主に山地の河川沿いや明るい草地などに生育するとされています。今回ナントウウリクサが発見された場所は石垣島の草地であり、既知分布域である台湾に地理的に近く、生育環境も類似していました。このことから、本種が在来植物である可能性を報告しました。採集した証拠標本は鹿児島大学総合研究博物館に収蔵しました。

発見の経緯と意義
今回、ナントウウリクサが確認された草地は、石垣牛の放牧地として利用されており、数年前に管理が放棄された場所でした。石垣島では中世から牛馬の放牧が盛んに行われ、以前は草地が広がっていたと推測されますが、現在は開発によりその多くが失われています。放牧地は家畜伝染病対策のため立ち入りが制限されていることもあり、草原の現況調査はこの半世紀ほとんど行われていませんでした。今回の発見は、今も残る放牧地が草原生植物のレフュージアとして機能しており、生物多様性保全上重要であることを示しています。

保全上の課題
ナントウウリクサは発見されたばかりですが、すでに絶滅の危機に瀕しています。近年石垣島では、後継者の不足による離農や、生産拡大のための土地整備によって、放牧地や水田畦畔といった草地が急速に失われています。このままでは、ナントウウリクサだけでなく、多くの草原生植物が石垣島から姿を消してしまうかもしれません。生産活動と生物多様性保全を両立させるような戦略の策定が急務であると言えます。

発見されたナントウウリクサ

論文情報

タイトル:Torenia benthamiana Hance (Linderniaceae) Collected on Ishigaki Island, a New Record for Japan
著者:Kaito Yamazaki*, Hiroki Moriwaki, Natsuki Komada, Kazuhide Nakajima, Ayuki Okamoto, Takeru Okano, Shunsuke Nakama, Yuta Ohara, Masaaki Takyu
*責任著者:鹿児島大学理工学研究科博士後期課程2年 山崎海都
掲載誌:Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 76 (3): 265-270.
DOI:https://doi.org/10.18942/apg.202513

ページの先頭へ

受験生の方