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ニュースリリース

研究成果「母親からのゲノムに“刷り込まれる”記憶の多様性」

2023年3月20日

教育・学術

 奈良県立医科大学、発生・再生医学講座の研究グループは、哺乳類の卵のエピゲノム修飾[1]が次世代へと継承される、つまり母親のゲノムに刷り込み(インプリント)が入るゲノムインプリンティング現象[2]において、特に胎盤に引き継がれるインプリント状態が種間多様性に富んでいることを明らかにしました。今回、同講座の小林久人准教授を中心とする研究グループは、ネズミ科の仲間であるラット(クマネズミ)とマウス(ハツカネズミ)のマルチオミクス比較解析[3]により、ラット特異的なインプリント遺伝子座を複数同定することに成功しました。これらの遺伝子はすべて胎盤系列特異的なインプリント遺伝子であり、ラットとマウス間のゲノムあるいはエピゲノムレベルでの違いにより、母親由来インプリントの種間多様性を生み出していることが明らかとなりました。ラットでのゲノム広範囲なインプリント遺伝子の探索は世界初となります。
 本研究は、当大学、東京大学、理化学研究所、東京農業大学、九州大学、国立成育医療研究センター、生理学研究所、パリ・シテ大学、ブリティッシュコロンビア大学の国際共同研究により実施されました。
 本成果は3月14日付けでオンライン科学雑誌「Genome Biology」に掲載されました。

発表論文

掲載名:Genome Biology (英国BioMed Central社が発行するオンライン科学雑誌)
タイトル:Conservation and divergence of canonical and non-canonical imprinting in murids(ネズミ科における典型的・非典型的インプリンティングの保存性と多様性)
著者:Julien Richard Albert, Toshihiro Kobayashi, Azusa Inoue, Ana Monteagudo-Sánchez, Soichiro Kumamoto, Tomoya Takashima, Asuka Miura, Mami Oikawa, Fumihito Miura, Shuji Takada, Masumi Hirabayashi, Keegan Korthauer, Kazuki Kurimoto, Maxim Greenberg, Matthew Lorincz, Hisato Kobayashi
掲載日: 2023年3月14日
DOI: 10.1186/s13059-023-02869-1

共同研究グループ

  • 奈良県立医科大学 発生・再生医学講座
    准教授 小林 久人
    教授 栗本 一基 
    研究員 高島 友弥
  • 東京大学 医科学研究所
    准教授 小林俊寛
    助教 及川真美(現所属:東京薬科大学)
  • 理化学研究所 生命医科学研究センター 疾患エピゲノム遺伝研究チーム
    チームリーダー 井上 梓
  • 東京農業大学 生物資源ゲノム解析センター
    研究員 隈本 宗一郎(現所属:早稲田大学)
    研究員 三浦 明日香
  • 九州大学大学院 医学研究院
    准教授 三浦 史仁
  • 国立成育医療研究センター システム発生・再生医学研究部
    部長 高田 修治
  • 生理学研究所 行動・代謝分子解析センター 遺伝子改変動物作製室
    准教授 平林 真澄
  • パリ・シテ大学 ジャック・モノ―研究所
    研究員 Julien Richard Albert
    グループリーダー Maxim Greenberg
  • ブリティッシュコロンビア大学
    教授 Matthew Lorincz
    助教 Keegan Korthauer

用語解説

[1] エピゲノム修飾(Epigenome)
細胞には、自身の膨大なゲノム情報から必要な情報だけを取り出すためのゲノムの取扱説明書のような機構が備わっており、これをエピジェネティック機構という。エピジェネティック機構の分子実体は、DNAメチル化などのDNA自体への化学修飾と、DNAを収納するタンパク質であるヒストンへの化学修飾が主である。これらの化学修飾(エピジェネティック修飾)がゲノム内の適切な場所に配置することで、必要に応じた遺伝子を発現させることができる。
[2] ゲノムインプリンティング機構(Genomic imprinting)
卵と精子では、互いに異なるゲノム領域にエピジェネティック修飾が刻まれており、この一部が受精後も受け継がれることで、父親由来の染色体と母親由来の染色体のどちらか一方のみが機能を発揮する。このような遺伝子発現の制御機構をゲノム刷り込みという。刷り込み遺伝子は、ゲノム刷り込みを受ける遺伝子のこと。
[3] マルチオミクス(Multi-omics)
人体の機能を司る様々な物質を、一つひとつではなく、すべて一括して分析する手法で、“ミクス”は網羅的解析を意味する。分析対象によって、ゲノミクス(ラット、マウスなどのゲノム配列情報)、エピゲノミクス(各細胞のDNAメチル化、ヒストン修飾などのエピゲノム情報)、トランスクリプトミクス(各遺伝子より発現したRNAの量)などに分かれる。 [4] H3K27me3
細胞核内のクロマチン(ゲノムDNAが格納されている)のヒストンタンパク質のうち、ヒストンH3テールの27番目のリシンにメチル基が3つ付加された状態。一般的に、遺伝子発現の抑制に機能する。非典型的インプリンティングでは、卵からのインプリント記憶として、受精後に引き継がれる。

問い合わせ先

奈良県立医科大学 発生・再生医学講座
准教授 小林 久人
E-mail: hiskobay@naramed-u.ac.jp
教授 栗本 一基
E-mail: kurimoto@naramed-u.ac.jp
TEL: 0744-29-3015

取材申し込み先

奈良県立医科大学 研究推進課
E-mail: sangaku@naramed-u.ac.jp
TEL: 0744-22-3051

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