東京農業大学

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教員コラム

きのこ栽培用加湿器(イーマッシュ)

2014年12月1日

地域環境科学部 森林総合科学科 教授 江口 文陽

森林からの天然物を利用した製品の開発(8)

森林内の環境に近い性状の霧によりきのこ生産に貢献

 きのこの生産は、原木栽培から菌床栽培へとその栽培方法がここ数十年で大きく変化してきました。また、原木栽培においても森林内での栽培からハウスなどを利用した施設園芸方式による栽培法が普及しています。
 ハウスを利用した栽培においては、温度、湿度、二酸化炭素濃度、光などといった環境要因が子実体の生産量や形質を大きく左右するため、きのこ業界では環境制御システムの開発が重要な要素となっています。
 環境要因の一つである湿度は、特に菌床や屋内での原木栽培においてポイントとなります。現在のきのこ生産用加湿装置には、超音波式や噴霧式などのタイプが利用されています。それらは湿度管理に効果を発揮するものの、生産現場からは更なるメンテナンスの簡素化(衛生管理と保守管理)や1台の装置からの噴霧量を増やすことへの要望が多く寄せられています。
 水道管直結型きのこ栽培用超微細霧発生装置(イーマッシュ)を研究開発し、各種きのこの生産現場レベルでの性能評価試験を実施してきました。
 渦流衝突噴射霧粒径の測定として、水道水とエアーを混合しダブルノズルから噴射する霧の粒径と質を工学的に測定、生産施設での湿度管理能力の測定としてエリンギ、バイリング、ヒラタケ、シイタケ、エノキタケ、ブナシメジ、ヒメマツタケなどの生産現場にイーマッシュを設置し、各種栽培環境下における湿度の管理状況ときのこの生産量や形質などを調査しました。さらに、耐久性能試験と衛生試験では、2年間の連続運転による装置の耐久性能、噴霧粒径および単位時間あたりの噴霧量などを調査するとともに、各部品の劣化度を検査しました。また、3カ月間隔で霧を採取し水道法および食品衛生法に基づく水質評価も行いました。
 イーマッシュの霧粒径は、2〜10µmの超微粒子であり、栽培施設内をぬらさずに加湿する性能を有することが確認されました。また、霧噴射を電磁弁で制御するため水滴をもらさず、さらに停止時に装置内に余剰の水を残存させないため持続的な衛生管理が可能です。連続運転によるメンテナンスフリーの実現と高い耐久性にも優れています。各種きのこで生産量の増加を確認するとともに、堆肥栽培のヒメマツタケなどでは連続栽培時の培地含水率調整のための散水を減らすなどの作業量軽減の実現も可能となりました。
 イーマッシュをきのこ生産現場へ導入することは、きのこの生産性と形質、生鮮食品としての安全性、作業効率の向上などに寄与するものと考えます。また、従来の加湿装置に対して単位面積あたりの設置台数を大幅に減らすことが可能であるとともにメンテナンスフリーといった特徴からコストの削減にもつながるものと考えます。この技術は、人工栽培によるきのこの生産環境を森林環境に近づけるものです。なお、この装置はきのこ生産のみならず、家畜舎の湿度管理、開放型空間での放射冷却効果を引き出す汎用性能もあります。

写真1 イーマッシュの外観と90度直交衝突型Wノズルヘッド
写真2 イーマッシュのきのこ生産現場での作動状況
写真3 演出効果、放射冷却による野外環境の冷房としても使用可能

 

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