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世界初の固体発酵法でエタノールを生産

お酒を造るとクリーンエネルギーも出来る?!

石油は、私たちの暮らしに欠かせないエネルギー。ところが、あと40年ほどで枯渇するといわれています。何かそれに代わるものはあるのでしょうか?そこで、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科の鈴木昌治教授が、醸造技術を利用した地球にやさしい新エネルギーについて語ってくれます。

クリーンなバイオマスエネルギー

石油などの化石燃料に代わるエネルギーの資源として注目されているのが、「バイオマス(生物資源)」です。
バイオマスとは、化石資源以外の「生物に由来する再生可能な有機資源」のこと。たとえば、食品廃棄物(生ごみ)、山林から出る間伐材、とうもろこしなど食用以外にも使える資源作物などがその一部です。

これらは生命と太陽光さえあれば枯渇しません。また、燃やしても発生した二酸化炭素は植物が光合成に使うので、地球上の二酸化炭素量も一定に保たれ、温暖化を抑制できます。そしてこれらを利用して造るのが「バイオマスエネルギー」。まさに地球にやさしい、クリーンなエネルギーなのです。

とはいえ、廃棄物などからどうやってエネルギーを造るのでしょうか。実はそこには、人間が古来から培かってきた醸造技術が生かされているのです。

お酒造りの技術で生ごみが燃料と肥料に

「醸造」と聞いてみなさんが思い浮かべるのが、お酒、味噌、醤油でしょう。これらはカビの一種である麹菌のほか、酵母菌、乳酸菌など微生物の働きを利用して造られています。

このうち最も長い歴史をもつのがお酒です。奈良時代の書物にはすでに、「神棚に供えた米にカビが生えて、そこに水を加えたら酒になった」という記述があります。お米がお酒になったのは酵母の働きによるもの。もちろん、昔の人が微生物の存在を知るはずはありませんが、酵母がお米の成分を分解してエタノールを造ったのです。

ただし、酵母が分解を行うためには、まずお米の主成分であるでんぷんをブドウ糖に変えなければなりません。その役目を果たすのが麹菌。麹菌が造ったブドウ糖の液の中に酵母を入れると、酵母がせっせとブドウ糖を分解してエタノールを造ります。この状態が「発酵」です。

こうした酒造りの技術を使って、バイオマスから燃料用エタノールを造る研究が進んでいます。エタノールは台所や食品の殺菌剤としておなじみですが、引火性が強いので燃やすことができます。では、実際に生ごみからエタノールができるまでを説明しましょう。

まず、生ごみを乾燥させて固体にします。この「固体」という点がポイントなので、覚えておいてくださいね。

生ごみの中には米やパンくずなどのでんぷんが豊富に含まれています。そこに麹菌を入れ、でんぷんをブドウ糖に変換。次に酵母を加えると、酵母が発酵してエタノールができます。これを蒸留すれば完成。エタノール濃度は75%で、燃やせばタービン(※)を動かせるほどの高濃度です。一緒に出てくる固形の残りかすもそのまま良質の肥料として使え、無駄が一切ありません。

ただし、生ごみを固体でなく液体で発酵させると肥料はできません。残りかすも液体で出てくるからです。成分は同じでもこれは法律上「廃液」と見なされ、畑にまくことはできずお金をかけて処分しなければならないのです。

技術的には液体のほうが発酵しやすいのですが、廃液が出ては困ります。そこで何種類もの酵母を試した結果、原料が固体のままでも発酵する酵母を見つけました。「固体発酵法」というこの方法は、中国のあるお酒の造り方にヒントを得たものです。この方法で生ごみからエタノールを造っているのは、おそらく世界でも東京農大だけでしょう。

※タービン=液体や気体を動翼にあて、それにより軸を回転させて動力を得る原動機

環境、資源の分野でも微生物が大活躍

ブラジルでは、ほとんどの自動車がエタノールを25%混合したガソリンで走っています。このエタノールは、サトウキビから砂糖を造った後の廃糖蜜という液体を発酵させて造ったものです。日本でも、エタノールを3%混ぜたガソリンが一部のスタンドで販売されています。

もちろん、すべてのエネルギーをエタノールだけでまかなうことはできません。しかし石油はいずれ枯渇します。太陽光エネルギーをはじめいろいろな新エネルギーを併用し、新たなエネルギー供給体制を作ることが必要なのです。

ところで、生ごみ以外にもエタノールの原料として有望なものがあります。それは竹。竹はセルロースという、ブドウ糖がつながった物質でできているので、酵母が働くのに適しています。

実は最近、国内では竹林が増えすぎて自治体が処理に困っているのです。こうした「厄介者」が役立つものに変わるのも、微生物の活躍があればこそ。このほか微生物は河川の浄化などにも使われており、多くの可能性を秘めているといえるでしょう。

古代の酒造りから始まった醸造技術。それを食や健康の分野だけでなく、環境修復やエネルギー対策にまで応用していくのも、農学のおもしろさです。

鈴木 昌治
すずき まさはる

主所属専攻講座: 応用生物科学部 醸造科学科
専門分野: 醸造環境学分野
取得学位
:農学博士 、 東京農業大学 (Tokyo University of Agriculture) 、 取得方法:論文 、 1988年03月

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