東京農業大学

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教員コラム

麻黄に関する学際的調査研究

2015年12月1日

農学部バイオセラピー学科 教授 御影 雅幸

マオウ属植物と漢方生薬「麻黄」

 裸子植物のマオウ科マオウ属植物Ephedra spp. は漢方生薬「麻黄(マオウ)」=写真=の原植物で、感冒初期の治療薬として著名な葛根湯や花粉症の治療薬とされる小青龍湯などに配合される重要な医薬品である。また、喘息治療薬とされるアルカロイドのエフェドリンを含有し、西洋医学でも重要な薬用植物である。『第16改正日本薬局方』(以下、日局)には「麻黄」の原植物としてE. sinica Stapf、 E. intermedia Schrenk & C.A.Meyer、E. equisetina Bungeの3種が収載されている。薬用部は地上部の細くて緑色をした茎である。本属植物は日本に分布せず、現在は年間必要量の約500トンを中国から輸入している。一方、中国政府は砂漠化防止と資源保護を理由に、1999年1月から輸出規制に踏み切るなど将来的な資源不足が懸念されており、国産化の必要性が高まっている。筆者は1983年以来、マオウ属植物について学際的に研究を行い、近年は生薬「麻黄」の国内生産を目指している。その一端を紹介する。

 

フィールド調査と植物学的知見

 マオウに関してはこれまでに、中国各地、モンゴル、ロシア、ネパール、ブータン、パキスタン、トルコ、イタリア、スイス、エジプトおよびフランスで自生地を調査してきた。その結果、マオウ属植物は海岸低地からヒマラヤの高山帯、さらに草原から乾燥地帯といったさまざまな環境に適応して生育していることが明らかになった。また、同一種であっても生育環境により大きく姿を変えることが、分類を混乱させている要因であることも分かった。
 マオウ属植物は被子植物との競争に弱く、肥沃な草原や山地など他の植物が大きく育つ場所ではそれらの日陰になって容易に枯死する。乾燥地帯に多く生えるのは被子植物との競争を避けるためであり、水分環境を好むことは他の植物と同様である。
 また、DNA解析研究により、E. sinica Stapfはモンゴルやブリアチアなどに分布するE. dahurica Turcz. のシノニム(異名)とすべきであること、ネパールヒマラヤ産でこれまでE. pachyclada Boiss. と同定されてきた分類群は、E. intermediaとE. gerardianaの雑種起源であること、トルコやフランス産のE. major subsp. proceraは日局収載のE. equisetinaと同種であることなどを明らかにした。

 

野生資源に関する調査

 フィールド調査の結果、資源減少の最も大きな理由は農地の開墾で、次いで乱獲であることが明らかになった。マオウ属植物は地下部に貯蔵でんぷんを含有せず、開墾されると容易に枯死する。薬用3種の中でE. sinicaが地下茎で繁殖する性質が最も強く、また土質を選ばないが、E. equisetinaはがれ場や岩場にしか生えず、薬用3種の中ではもっとも絶滅が危惧される種である。E. intermediaも乱獲のため、現在では人が容易に近づけない崖などにしか残っていない地域が多い。
 また、家畜による食害も深刻だ。マオウ属植物は他の植物との競合を避けるため、早春他の植物に先駆けて芽生え開花する。よって、この時期にはヒツジやヤギの格好の餌となる。ヒツジによる被害を検証するため、開花期の5月初旬にE. sinicaの雌株群落でヒツジの食べ方を模して地上部をはさみでカットした後、定期的に観察した。その結果、切断した株からは新たに萌芽することはなく、その年は開花結実しなかった。1年後の同時期に調査したところ、実験区の株は隣接する場所に比して顕著に毬花の数が少なく、ヒツジによる食害が甚大であることが明らかになった。

 

化学的品質に関する研究

 麻黄は日局で総アルカロイド(エフェドリンとプソイドエフェドリンの和)を0.7%以上含むものと規定されている。その含有量に関しては従来、種、雌雄、草質茎の部位、採集時期による違いなどが発表されてきた。ヒマラヤ産の植物を材料に検討したところ、原植物による違い以上に生育環境の影響を受けていることが明らかになった。すなわち、水分環境が悪くてよりアルカリ性の土壌に生育する株ほどアルカロイド含量が高いという結果を得た。さらに精査した結果、エフェドリンやプソイドエフェドリンといった個々のアルカロイドの構成成分比は遺伝的要因に支配されていることが明らかになった。
 また、パキスタンにおける調査で、マオウ属植物は塩性地にも生育し、かつアルカロイド含量が高いことが分かった。そこで、発芽時における耐塩性について調査した結果、E. sinicaの耐塩性はホウレンソウやハツカダイコンなどと同程度で、E. sinicaを越える耐塩性を示したのはアッケシソウのみであった。このことから、栽培地として一般植物が育たないような海岸の砂地でも栽培が可能であろうと考えている。さらに栽培実験で、16倍に希釈した人工海水を灌水することで、有意にアルカロイド含量が高くなった。

 

国内生産に向けた研究

 近年の筆者らは最終目標を医薬品「麻黄」の国内生産においている。そのためには、収穫物の総アルカロイド含量が日本薬局方に規定された0.7%を超える必要がある。
 2013年度から、厚生労働省の科学研究費を受けて、能登半島の栽培放棄地を利用して試験栽培を開始した。マオウ属植物の栽培はそれほど困難ではない。種子は休眠することなく、採り蒔きすると通常10日前後で発芽する。栽培研究は金沢大学をはじめとする各地の研究機関と共同で行っている。
 種苗生産:日本ではこれまで圃場での種子生産が困難であったが、開花株を温室内など乾燥した環境に保管することや人工受粉により結実し、種子が得られることが分かった。また、挿し木法による増殖を検討した結果、草質茎を節の部分で切り、人工気象器内に保管することで、優れた発根率が得られた。さらに東京農大での研究でミスト繁殖が有効であることが明らかになり、クローン苗の大量生産に目安がついた。
 種苗の定植:発芽苗をロングポットで2〜3年育成した苗を定植したところ、翌年には3分の1が欠株した。そこで、発芽間もないペーパーポット苗を定植したところ、1年後の欠株は1割になった。
 アルカロイド含量:中国の栽培地訪問調査の際、尿素を与えるとアルカロイド含量が高まるのではないかと考え2014年に圃場実験した。その結果、発芽3年生株でアルカロイド含量が平均1.12%となって日局の規格を満たし、麻黄の国内生産が可能であることが示唆された。中国では収穫までに通常5〜6年を要しているので、栽培期間も短縮できた。この結果を踏まえ、今年10月からは伊勢原市にも圃場を借りて栽培を始めた。
 今後の取り組み:日局で含量規定している2種のアルカロイドはそれぞれ薬効が異なる。任意のアルカロイド含有率や組成が得られる栽培品種(系統)を作出することを目指し、手持ち株からの選抜とともに、異種間をも含めた交配実験も始めた。全国規模で栽培適地を探索することも重要である。さらに、種子生産や挿し木法の改善をめざし、水耕栽培をも視野に入れて研究を継続している。


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