東京農業大学

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原子・分子から
生命・生態系を化学する

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これまでに達成した研究例

医薬品候補物質の特徴的な構造に則した合成法の開発

(Z)-2β-hydroxy-14-hydro-β-santalolは抗ピロリ菌活性を有するテルペノイドである。「テザー法」により立体配座を固定した状態でのタンデム型ラジカル反応を鍵反応として、高い立体選択性でビシクロ[2.2.1]ヘプタン骨格の構築に成功するとともに、中間体の光学分割により両鏡像体の合成を達成した。本合成により、不明であった天然物の絶対立体配置を決定することが出来た。
一方、Cochlearol Aはマンネンタケ科のGanoderma cochlear(霊芝の一種)より単離され、腎保護作用を有するメロテルペノイドである。本化合物のジオキサスピロ環をスピロエポキシドを中間体とした分子内アセタール形成により構築することにより、効率的な合成法の確立に成功した。

バラの香気成分に関する類縁体展開と香気評価

バラの重要香気成分であり、シトラス様香気を示すDAMASCENOLIDE®に関して、二重結合の追加や除去、二重結合に関する位置異性体および幾何異性体、側鎖の置換位置や鎖長の伸縮、メチル基の追加や除去、ヘテロ原子の導入など様々な類縁体展開を行い、数十の類縁体を網羅的に合成するとともに、これらの香気特性を評価した。その結果、DAMASCENOLIDE®における2つの二重結合の存在や側鎖の末端ジメチル基の存在がシトラス様香気の発現に重要であることをはじめ、二重結合の幾何異性が香気に大きな影響を与えることなど、構造香気相関に関する多くの知見を得ることに成功した。

キノコに含有される特徴的な化合物の合成研究

LaccarinはLactarius subplinthogalus (ヒロハウスズミチチタケ)より単離され、環状AMPホスホジエステラーゼ阻害活性を有するアシルピロリジノン誘導体である。ニトロMannich反応による縮合と1,3-双極子付加環化を鍵反応としたアシルピロリジノン骨格の効率的構築法の開発に成功するとともに、Laccarinの光学活性体合成にも応用した。
一方、Lycoperdic acidはLycoperdon perlatum (ホコリタケ)より単離され、分子内にグルタミン酸構造を有する非タンパク質性アミノ酸で、その生物活性に興味が持たれる化合物である。本化合物の両鏡像体合成を、キラルなカンファースルタム誘導体を用いた立体選択的Diels-Alder反応とジオールの酸化開裂を鍵反応として達成した。

10員環ラクトンを有する活性物質の合成と構造解析

 抗腫瘍活性を有するtopsentolide A1は、その立体化学が未解明であった。本研究では、同一の中間体より可能性のある全ての立体異性体へと巧みに誘導するとともに、各種スペクトルの詳細な比較により、天然物の絶対立体配置を決定することに成功した。さらに立体異性体間でのがん細胞に対する細胞毒性についても比較した。また、抗菌活性を有するglabramycin Bは部分的な相対立体配置が報告されているものの、立体化学の詳細については未解明であった。本研究では、既に報告されている構造に疑問を呈し、glabramycin Bの真の立体構造を独自に提唱した。この独自の構造を、既に合成を達成しているSch642305の合成手法を応用して合成し、我々の提唱が正しいことを証明するとともに、天然物の立体化学を改訂することに成功した。Topsentolide A1合成、glabramycin B合成ともに、世界初の全合成報告となった。

計算化学支援による10員環ラクトン類の合成と立体化学決定

 10員環ラクトン類には様々な生物活性を示す化合物がある。Decarestrictine類はコレステロール生合成調節活性を示すことから脂質異常症治療薬のリード化合物として期待できる。今日の低分子有機化合物の構造は核磁気共鳴分光法(NMR)をはじめとする分光学的手法により推定し、化学合成により決定することが主流である。一方で10員環化合物を含め、立体配座の自由度が高い化合物では完全な決定が困難な場合も多い。当研究室では、立体化学が確定されていなかったdecarestrictine GおよびHについて、密度汎関数法を用いた計算化学により化合物の安定配座を予測し、これをもとにNMRの情報を再検証することにより上記化合物群に最適な構造を提唱し、化学合成を行うことによりこれらの構造を下図の通り決定した。またdecarestrictine Gの合成においては、中間体の立体配座を計算化学により推定することにより、化学反応の立体選択性をあらかじめ予想し、効率的な合成経路を確立することができた。本研究は上記二種のdecarestrictine類の世界初の全合成である。

分子標的型抗腫瘍化合物の合成研究

 がんは日本人の死因の3割を占める深刻な疾病であり、新たな治療薬の開発が懇望されている。従来の多くの抗がん剤の作用メカニズムはがん細胞が通常の細胞を上回る増殖速度をもつことを利用するものであり、通常の細胞に対して与える影響は看過できない副作用として現れる。このため大きな治療効果を示し副作用は最小限の治療薬が望まれているが、これにはがん細胞を特徴づける分子を特異的に標的とする方法が有望である。
 当研究室では、がん細胞がストレス条件下で存在することを可能にする分子シャペロンgrp78の誘導抑制剤であるversipelostatinの合成研究を行っており、鍵構造であるスピロテトロン酸部分の合成に成功した。また、p53遺伝子変異細胞(多くのがん細胞はp53遺伝子に変異が生じている)に特異的な抗腫瘍活性を発揮するFE399の合成と立体化学を決定することに成功した。

ビオチン標識体を用いた結合タンパク質の同定と作用機序の解明

 生物活性を有する天然有機化合物の中には、顕著な活性を有するが、その活性発現機構が不明である化合物も多い。細胞周期阻害剤であり抗がん剤としての可能性を持つradicidolおよびFR901464に対して、構造活性相関研究を経てビオチン標識体を設計・合成した。本標識体を用いた結合タンパク質の同定を行った結果、radicicolはその芳香環部分を中心としてHSP90に結合し、カルボニル基部分を中心にATP citrate lyaseに結合することが判明した。
 一方FR901464に関しては、構造活性相関研究を通じて天然物を凌ぐ高い活性を有するspliceostatin Aの開発に成功しただけでなく、これらがスプライシング因子の一つであるSF3bに結合してスプライシングを阻害することを見出した。これにより、スプライシング因子が抗がん剤の新たな標的となり得る可能性を示すことが出来た。

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