勝田 亮 教授
研究テーマ
健康に寄与する物質の創製
すべての存在は原子・分子から
地球上のあらゆる存在は原子・分子から成り立っています。動物や植物をはじめとする生命も例外ではなく、それは大小さまざまな分子によって構成され、生存のために巧みに化学反応を操ってさえいるのです。
つまりはそこにある物質をつまびらかに研究することで、あらゆる生命現象を解明することができる。そして、その成果をもとに新たな物質をつくり出し、人間生活をより豊かにする。これが私たち分子生命化学科のテーマです。
新しい物質を「設計」し「合成」する分子設計学
人間生活で、物質はどのように役立っているのでしょうか。ひとつは衣類や建築、機械の素材として、次に医薬や化粧品などとして私たちの体を調節し、またあるものは農薬などとして生態系を制御します。このような物質を自在にデザインできたら、どれほど有益なことでしょう。病気によく効いて副作用の小さな薬や、野菜をよりおいしく安全につくる物質など夢は膨らみます。人類がこうした物質を手にするためには、生命現象をより深く理解する必要がありますが、驚くべきことに「物質」こそがそのための強力なツールとなるのです。
ふたりの人間が出会ったとき、手と手を取って握手しそこから会話が始まるように、物質が生命体のある一か所に働きかけることで生命現象が始まります。このとき、物質とそれを受容する「ある一か所」のかたちの組み合わせが大変重要な意味を持ちます。この組み合わせを分子モデリングによってコンピュータ上で最適化すると、さまざまな効果を発揮する新たな分子を設計することができます。結果が正しいかどうかは、分子を実際に「合成」して確認します。物質の合成では環境に負荷をかけず、ローコストで、芸術的と言えるまでに効率的な合成戦略を自身がスタッフと相談しながら設計し、実験をおこないます。これは簡単なことではありませんが、天然を超える可能性を秘めた、まだ地球上に存在したことのない「新たな」化合物を自らの手で作り出したときは、その喜びはひとしおです。
高度な生命高分子化学にもチャレンジ
最近、注目の分野のひとつに「バイオプラスチック」があります。プラスチックは私たちの生活にとって欠くことのできない一部ですが、石油資源からつくられており無限に使い続けることはできません。今こそ、微生物の力を利用して植物性素材からつくることができるバイオプラスチックが必要です。最先端の研究を通じて機能的な素材へと日進月歩の進化を遂げ、バイオプラスチックでできた航空機が空を飛ぶ日もそう遠くないかもしれません。
社会から必要とされている、確かな理系の基礎力
分子生命化学科の卒業生は社会から求められる人材であってほしい。この願いから、カリキュラムでは理工・生命系企業でいま最も必要とされている有機化学、無機化学、高分子化学などの分野を網羅しています。さらに化学全般の基礎となっている数学や物理学なども学習することで、さまざまな講義で学習した知識を有機的に連結させ、「自ら考える力」を築きあげてゆきます。
入学する皆さんには、自分の将来を見据えている人も、決めかねている人もいるでしょう。しかし、大学という場所は社会人になるための学びの出発点です。ここで大切なのは、いかにいいスタートが切れるか。そのためには理系人として正しい知識を身につけ、基礎的な能力をきっちりと養う必要があります。
サイエンスの中でも化学はクリエイティブな要素をもった豊かな学問です。分子生命化学科の学びを修めてから見る森羅万象は、いままでとはまた違ったものになるでしょう。化学の力が未来を切り拓いていきます。