研究テーマ
I.生分解性プラスチック微生物合成システムの最適化
現在、ペットボトルやゴミ袋をはじめとして、生活のあらゆる場面でプラスチック製品が活躍しています。これらのプラスチックは用途に応じて様々な形状に加工でき、かつ軽くて丈夫であるという特徴があります。しかし、丈夫であるがゆえに自然界ではほとんど分解されず、焼却すると二酸化炭素や有害物質を発生するため、様々な環境問題の原因となっています。また、有限な資源である石油を原料としていることも、今後のプラスチック利用に際して大きな課題となっています。
そこで今、石油系プラスチックの代替品として期待されているのが「生分解性プラスチック」です。使用中は石油系プラスチックと同じように使うことができますが、使用後は土壌中や水中にいる微生物の働きで完全に分解されるという性質を持ちます。代表的な生分解性プラスチックとして、微生物がエネルギー貯蔵物質として合成するポリエステル、「ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)」が挙げられます。
生分解性プラスチックであるPHAは、植物が光合成した糖や植物油を“エサ”として、微生物が体内に合成する言わば“脂肪”(ポリエステル)です。PHAは、使用後に微生物の持つ酵素の働きで水と二酸化炭素へと分解され、これらを植物が取入れて再び光合成を行い・・・という、自然界の炭素循環サイクルに組込まれています。したがって、石油系プラスチックの代わりにPHAを使用することで、温室効果ガスである二酸化炭素の排出が抑えられ、環境汚染も軽減することができます。私たちは現在、微生物の代謝や酵素を改変することで多様なPHAの創出することで、生分解性プラスチックが普及していくことを目指して研究を行っています。
それでは、一体どのようにして微生物体内にPHAが作られるのでしょうか。簡単に言えば、微生物の体内に“脂肪”(PHA)の合成をつかさどる“肥満”遺伝子 (PHA合成関連遺伝子群) があり、過剰の“エサ”(糖や植物油など)を与えるとその遺伝子が働いて“脂肪”(PHA)が合成されます。
私たちの研究室では、この“肥満”遺伝子に手を加えたり、“エサ”の種類や与える量を工夫したりすることで、微生物体内でのPHA蓄積量を増加させたり、新たな性質を持ったPHAの合成を目指しています。
II.植物バイオマス(米ぬか、コーヒー粕等)由来新規バイオプラスチックの開発
現在実用化がすすめられているバイオプラスチックの多くは、ポリ乳酸やバイオポリエチレンなど、融点(熱で溶ける温度)が170℃付近までのものが一般的です。私たちが日常使うプラスチック製品の多くはこのぐらいの耐熱性があれば十分使用できますが、その一方電子機器や自動車など、より高い耐熱性や強度が求められる用途にも多くのプラスチックが使われています。これらの用途へのバイオプラスチックの応用展開のため、現状より高い耐熱性や強度をもつバイオプラスチックの開発が求められています。当研究室では米ぬかやコーヒー粕に含まれる、フェルラ酸やカフェ酸といった芳香族化合物(一般に「ポリフェノール」と呼ばれるものの一部です)を出発原料として、石油由来の高強度・高耐熱性プラスチックに匹敵するバイオプラスチックの開発を進めています。