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知的好奇心へのアドベンチャー VOL.5  

サクラは実は秋咲きだった!?

 サクラは春に咲く。それは昔から変わらない風景のように思われています。 しかし「サクラは本来、秋に咲いていた」。「それがある理由によって、 春に咲くようになっていた」と考えられます。
サクラを巡るふしぎな物語を、ご案内します。


先祖の影


サクラは昔、秋に咲いていた。
日本には数百種類のサクラがありますが、ソメイヨシノに代表されるように、そのほとんどが春に花を咲かせます。でもわずか数品種ですが、秋に咲くサクラもあるのです。10月から11月にかけて花を咲かせるフユザクラ、ジュウガツザクラなどです。
ここに「サクラは本来、秋に咲いていた」という仮説を裏づけるヒントが隠されています。秋に咲くのは、突然小春びよりが続いたことで、サクラが春になったと勘違いしてしまう「狂い咲き」、あるいはホルモンの変化によるものなどといわれてきました。
しかし、本当にこうした狂い咲きのたぐいなのでしょうか?秋咲きのサクラは、ネパール地方にもあります。「ヒマラヤザクラ」という種です。秋咲きという点だけでなく、花が散らずに、樹にへばりついてしぼんでいく点など、日本の秋咲きのサクラといくつかの共通点があります。実は、日本の秋咲きのサクラは、ネパールのサクラと関係しているのではと、私たちは仮説をたてたのです。

  日本のサクラとネパールのサクラの遺伝的な特性を知るため、染色体を調べてみると、16個の染色体数をもつ野生種であることが解りました。
また交配実験でも授粉した花数に対する結実率は30〜50%と良好な成績でした。このことから日本のサクラとネパールのサクラは遺伝的に非常に近い関係にあることが解りました。そして、日本で秋咲きのサクラが見られるのも、「狂い咲き」などではなく、「先祖返り」による可能性が高いのです。先祖返りとは、人間が類人猿から進化した名残りとして、ときどき尻尾が生えて生まれてきたり、乳房が三つあったりすることがあるように、先祖がもともともっていたものが何かのきっかけで出てくる現象のことです。
つまり、日本の秋咲きのサクラは、そのルーツであるヒマラヤザクラの先祖返りというわけです。


眠るサクラ


 もともと秋咲きだったサクラが、なぜ日本では春咲きになったのでしょうか?その秘密は、ネパールと日本の気候の違いにあります。
秋咲きのサクラがあるネパールは、緯度は亜熱帯に属し、山岳地帯を除けば標高は1400〜2000mほど。一年を通して温度差は少なく、とても穏やかな気候です。これに対して日本は、春夏秋冬がはっきりしていて、一年でも最高と最低気温の差が30度以上あります。ネパールと比べると、とても厳しい気候なのです。
つまり、温室育ちのネパールのサクラは、中国、台湾、日本へと北上していく過程で、厳しい気候を乗り切る手立てとして、冬場に葉を落として活動を止める「休眠」を得たのです。動物でいえば冬眠です。そして暖かくなった春に、花を咲かせるようになったのです。
「そんなことがあるわけない」と思われるかもしれません。でも、次の事実は非常に示唆に富んだ話です。

 ネパールには秋咲きのヒマラヤザクラのほかに、 2種のサクラがありますが、実はこの2種とも春咲きなのです。なぜでしょうか?
この2種のサクラは、ヒマラヤザクラと違い、雪が降り気温も零下にまで下がる標高3000m以上のところにあります。そうです、この2種のサクラも、厳しい環境で生き残るために休眠を獲得して、春咲きの性質に変身していったと考えられるのです。

 その昔、サクラは秋に咲いていた。それが厳しい環境へと移動していくなかで生き残るために眠ることを覚え、春に咲くようになった。 毎春、爛漫に 咲き乱れるサクラを見ながら、私たちはそんなサクラのふしぎな物語に、想いをはせているのです。
植物の進化を遺伝子レベルで解明していくのも農学のおもしろさです。

桜の木
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