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知的好奇心へのアドベンチャー VOL.11  

生命科学へのクローン技術の応用

 最近、テレビや新聞に『遺伝子組み換え』『クローン技術』といった言葉が盛んに登場するようになりました。しかし、こうした最先端の技術によって、将来私たちの生活がどのように変わるのか、まだあまり知られていません。
そこで、東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科の河野友宏 教授が、クローン技術や遺伝子組み換え技術がもたらす知られざる可能性について案内します。

    

緑色に光るクローンマウス


ふしぎなマウスです。からだは緑色に光っています。これは私たちがつくったクローンマウスで、その名も「ひかるマウス」といいます。なぜこんなことができるのでしょうか?それは遺伝子組み換え技術を使っているからです。
使用した遺伝子はクラゲのもの。クラゲはからだの中に蛍光たんぱく質があるので、夜になると光って見えます。そこで私たちは、クラゲから取り出された蛍光たんぱく質をつくる遺伝子をマウスの遺伝子に入れてみたところ「ひかるマウス」ができたのです。これは遺伝子組み換え技術を証明するために行った実験ですが、この技術は、実はもっと大きな役割をはたすことが期待されています。  
たとえば、ここにひとりのかわいい赤ちゃんが生まれたとします。ところが調べてみると、この赤ちゃんは遺伝的な異常により重い病気をわずらっていたのです。診断の結果は「長くて5歳まで」。余命は長くありません。
通常、遺伝子はA、T、C、Gの四つの塩基配列から構成されていますが、その赤ちゃんは「AAA」と並んでいるはずのところが「AGA」と並んでいたのです。そこで、異常である「G」のところを「A」に置き換えてあげれば、遺伝子は正常な人と同じになります。遺伝子組み換え技術ではこういった研究も進められているのです。



体細胞クローン


またこんな例もあります。大やけどをした場合、皮膚移植が必要になってきますが、移植をする時に問題になるのが「拒絶反応」です。他人の細胞のものが入ると、人のからだはそれを「異物」と感じ、外に出そうとすることがあるのです。しかし、自分の細胞だったらそんなことは起こりません。そこで使われるのが「クローン技術」と「ES細胞」(※1)です。
クローンとは、遺伝的に全く同じ個体や集団をつくることですが、最近注目されているのが「体細胞クローン」と呼ばれる技術です。
受精卵は二つ、四つと分裂していきますが、分裂して間もなく(2〜4個)は、細胞の一つひとつをそのまま育てると、全く同じ子どもが複数できあがる可能性をもっています。
しかし、受精卵が分裂をくり返していくと、ある時点でスイッチが切り替わり特定の臓器にしかならないようになります。この状態が「体細胞」です。体細胞をいくら分裂させても、その臓器にしかならないので、子どもをつくることは不可能といわれていました。
ところが1997年、イギリスで体細胞を使ってクローン・ヒツジ、ドリーをつくることに成功したのです。
その方法は、まず皮膚や筋肉などの体細胞を取り出して培養し、細胞核を取り出します。これとは別に核を取り除いた未受精卵を用意し、そのなかに先ほどの体細胞の核を入れてあげます。これを1週間ほど置いて分裂させ、代理母に入れる ことによってつくられるのが「体細胞クローン」です。
この体細胞クローン技術に、ES細胞をドッキングさせることで拒絶反応のない皮膚移植が可能になります。ES細胞とは受精卵細胞を培養してできる細胞で、特殊な条件で培養すると皮膚や筋肉など、なんにでもなれることから「万能細胞」と呼ばれている細胞のことです。


遺伝子治療


 まず、やけどをした人の細胞から、体細胞クローン技術を使ってES細胞をつくります。そのES細胞を培養して皮膚をつくって移植するのです。この方法なら、自分の細胞からつくった皮膚なので、拒絶反応が起こる心配がないのです。
また、血友病は血液に凝固因子(※2)がないために起こる病気ですが、遺伝子組み換え技術とクローン技術を使うことによって、動物のミルクから人の血液凝固因子が出るようにすることも可能です。
この技術が確立すれば、大量に薬を生産できるようになるので、値段も安くなり、先進国だけでなく、発展途上国にも薬が行き渡りやすくなります。さらに、クローン牛をつくれば、良質の肉をつくる牛の種を絶やさないようにすることもできます。
人や動物の生命について探究し応用するのも、農学の面白さです。

※1:ES細胞(万能細胞)=受
精卵が分裂を重ね、身体のもとになる細胞の塊ができころ、一部を採取して培養したもの。これを別の胚に混ぜて出産させると、筋肉や内臓など様々な組織になる。 ※2:血液凝固因子=人間がけがなどで出血した時に、血を止める(固める)ために血液中にもっているもの。

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