ロボットが支える21世紀の農業
〜ゼロエミッション農業の実現を目指して〜
21世紀の農業はロボットが主役に――。こう聞くと「えっ!」と驚くか、「本当!」と疑ったりするのではないでしょうか。しかし実現に向けて、着々と研究は進められています。ロボットが行う農業とは果たして……。
東京農業大学地域環境科学部生産環境工学学科の玉木浩二 客員教授(元教授)が、近未来の農業のあり方を私たちに示してくれます。
”農業のロボット化”という言葉から、みなさんの中には、どこか無機質で冷たいイメージをもつ人がいるのではないでしょうか?機械が往復動作をくり返し、黙々と作業をこなしていく。あたりにはかすかにモーターの音が響くだけ…。おそらくこんな風景を想像するのではないでしょうか。しかし、ロボットが主役の農業は、地球や人間にきわめて優しく、とても温かみのある農業なのです。キーワードは、「ロボット」、「自然エネルギー」、そして「情報」です。これらには、21世紀の農業のキーワードがすべて込められています。
地球と人間に優しさを提供
これまでの農業は、殺虫剤や除草剤、農薬などを大量に消費する農業でした。このため、土壌汚染や地下水汚染など、環境に大きな影響を与えてきました。私たちの考えている農業は、太陽の光のエネルギーを利用して作業を行うソーラー農業ロボットです。しかし、サンサンと輝く太陽の光のエネルギーでは、みなさんが見なれている大きなトラクターを動かすことができません。このため、農作業のやり方をもっと小さなエネルギーでやる必要があります。小さなエネルギーで作業をするためには、軽い機械にしなければなりません。トラクターは大きな力を出すためにあのような重量になっているのです。また、作物栽培に雑草を全部抜く必要があるのでしょうか。このようなことを見直した結果、雑草は生やしたままで、棒のような器具で圃場に穴をあけ、先端にだけ肥料をやり作物にだけ肥料を与える作業法にしてやります。こうすることで、ロボットの重量は軽くなり、小さなエネルギーで働くことが可能になります。また、雑草は作物に害が及ばない程度に、絶えず一定の高さに刈りそろえておきます。ロボットは文句も言わずに、この作業を一日中やってのけるというわけです。このような圃場では、小さな生態系が創り上げられ、作物に寄って来る害虫は格段に少なくなります。害虫にも好きな食べ物がいろいろあるからです。除草剤がいらなくなるのです。
ところでみなさんは最近スーパーや、やお屋さんの店頭に、価格の安い野菜が並んでいるのを見かけたことがあると思います。たとえば、椎茸などは従来の価格の半値以下です。その種明かしは……。そうです、輸入野菜です。しかし、食べ物は安いだけで本当に良いのでしょうか?価格以外にも考えなければならないことがあると思いませんか?たとえば、農薬の問題です。どのような種類なのか?どれだけ使われたものなのか?どのようのか?どのように処理されたものなのか?不安になりませんか?私たちには確かめる方法がありません。そこで、ロボット農業の出番です。ロボットは並外れた記憶力で、畑に植えつけた作物の一本一本を識別し、「いつ」、「どこで」、「どのように」栽培したかを記憶しておくことができます。みなさんがスーパーで買い物をする時、それらの情報を取り出し安全性を確認することができるようになります。私たちが毎日口にする食料は、私たちの健康に直接かかわってくる重要な問題なのです。
廃棄物を利用する
こうした農業を目指しているのが、東京農業大学世田谷キャンパスに設置された「ロボット農業リサーチセンター」です。センターではガラス温室など施設の中で働くロボットや、畑で働くロボットの開発を目指します。畑で働くロボットは、同じ地域内に設置された自然エネルギーを最大限に活用することを目的とした大きな空間、「エコテク・グリーンハウス」の中で安全なネギやトマトのような野菜を作り、キャンパス内の食堂でみなさんに食べていただきます。食べ残した残飯や生ゴミは、同じ地域内の「リサイクルセンター」でたい肥化し作物栽培に再利用したり、隣接する「エネルギーセンター」でガス化してエネルギーを作ります。太陽電池 燃料電池などから発生したクリーンなエネルギーを作物の栽培等に利用していきます。このように、ロボット農業リサーチセンター、エコテク・グリーンハウス、リサイクルセンター、エネルギーセンターの四つの施設が互いに助け合って、自然エネルギーを可能な限り利用し、資源を循環させながら、安全な食べ物を作っていく農業の夢を実現していきたいと考えています。
ロボットを農業で利用するという夢から、農業を見直していくことも農学のおもしろさです。 |