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知的好奇心へのアドベンチャー VOL.32  

進化する畜産食品〜「機能性食品」の開発〜


 ここ最近、食品の栄養面やおいしさだけでなく、病気などを予防する「機能」が注目されるようになってきました。そこで、東京農業大学農学部畜産学科 の古川徳教授と松岡昭善教授が、牛乳や肉などの畜産物に含まれるさまざまな機能や、それを生かした健康によい食品などについて語ってくれます。

 牛乳や、牛乳に乳酸菌を加えたヨーグルトなどの発酵乳は昔から身体によいと言われてきました。たとえば、乳酸菌に整腸作用があることなどはよく知られていますね。でも優れた機能はそれだけではありません。

 カギを握るのが「ペプチド」です。これは食物中のタンパク質が分解されてできる成分で、アミノ酸が2個以上結合したもの。結合しているアミノ酸の種類、数や結合の仕方などにより、働きも違ってきます。牛乳には多くのタンパク質が含まれており、それを乳酸菌や酵素などで分解するとできるペプチドには、血圧を下げる効果をはじめ私たちの健康に役立つさまざまな機能があるのです。

 とくに注目されているのが「免疫機能を高めるペプチド」です。私たちの身体には外部から入った異物や病原菌と戦う細胞があるのですが、それらの働きを活性化し、病気にかかりにくくしてくれます。

 また、花粉症などのアレルギー疾患は免疫のバランスが崩れると起きると言われています。このペプチドを摂取すれば、春先のあのつらい症状が軽減されるかもしれません。最近は、身体の機能を調節してくれるこうした成分を抽出し、濃縮・強化して食品に加えた「機能性食品」がさかんに開発されています。


  

記憶力を高めるヨーグルト?


さらにこんなペプチドも発見されました。摂取すると脳の血流がよくなり、短期記憶(一時的に頭に留めた記憶)を保持できる時間が長くなる、「記憶力を高めるペプチド」です。

 乳ペプチドは、まだマウスを使った実験で効果が確認された段階ですが、大豆ペプチドを含んだ食品(飲料)の製品化は始まっています。みなさんが試験前に教科書を暗記するのに役立つかどうかはわかりませんが、たとえば高齢化による物忘れを改善する効果などが期待できそうです。

 ただし、牛乳や発酵乳は薬ではなく食品。1回に摂取される食品に含まれる機能性物質はごくわずかなので、薬のような即効性はありません。かといって1度に大量摂取するとお腹をこわすといった逆効果も。適量を継続してとるのがポイントです。 さまざまな働きで私たちの身体の機能を正してくれる乳酸菌やペプチド。実はどちらも、毎日バランスのとれた食事をし、それがきちんと消化されていれば、体内で自然と作られるものなのです。身体によいからといって特定の食品ばかり食べるのではなく、いろいろな食品を偏りなく食べることを心がけましょう。



次なるヒット商品?「発酵ソーセージ」


 乳酸菌は牛乳だけでなく食肉の分野でも注目されています。実は今、新たなヒット商品を造ろうと、乳酸菌を使った「発酵ソーセージ」の開発が進んでいるのです。

 発酵ソーセージは、挽肉にスパイスや乳酸菌を加えて腸詰めにし、加熱処理をせずに発酵させたもの。ほんのり酸味を帯びた独特の味わいは昔からヨーロッパなどで好まれ、さまざまな製品が造られています。

 しかし、日本のように高温多湿な気候では、有害細菌が増殖しやすく食中毒の危険性が高いことから、非加熱ソーセージの製造は近年まで食品衛生法で禁止されていましたが、食肉製品の製造、包装、保存等の技術が著しく向上したことから、平成5年に食品衛生法が改正され製造することができるようになりました。

 非加熱ソーセージは、食品衛生上「亜硝酸ナトリウム」の添加が義務づけられています。これは肉色をきれいに保つためと有害細菌の抑制、熟成風味の醸成を目的としてます。ところが、以前より亜硝酸ナトリウムは、発ガン性の有無が取りざたされており、使用を危ぶむ声もあります。原料肉に乳酸菌を添加し発酵することにより、ソーセージの中で乳酸菌が主要な菌となって乳酸が蓄積されpHが低下します。これにより有害細菌の増殖が抑制され、乾燥が進むとともに死滅します。乾燥度にもよりますが常温でも保存ができるようになります。また、亜硝酸ナトリウムのように発色能を有する乳酸菌や抗菌性物質を産生する乳酸菌も見つけられています。乳酸菌による静菌作用と発色効果が安定的に活用できれば亜硝酸ナトリウムの代替えとして使うことができます。

  一方、牛乳の場合と同じくタンパク質分解能を有する乳酸菌は、ソーセージの乾燥・熟成中に肉のタンパク質を分解するのでペプチドが生成されます。前述したようにペプチドにはさまざまな働きがあります。発酵ソーセージは、新しいおいしさを持った、私たちの身体に役立つ機能性食品といえるでしょう。

 ただし、これを安定的に造るにはこちらの思い通りに働いてくれる乳酸菌を見つけなければなりません。乳酸菌の活動に適した温度は30〜37℃ですが、この温度は有害細菌の適温でもあります。そこで有害細菌の活動が抑えられる10〜15℃の低温でも活発に増殖する乳酸菌を探しています。今すぐにとはいきませんが、いずれ皆さんの家の食卓にも発酵ソーセージが登場するのではないでしょうか。

 牛乳をはじめ畜産物には人間の健康に役立つ多くの機能があります。それらを発見し、単に栄養面だけでなく、美味しくて安全で身体にもよい畜産食品の開発に結びつけていくのも、農学のおもしろさです。

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