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知的好奇心へのアドベンチャー VOL.33  

米が人の健康を守る!?


病気予防や健康増進を目的に、次々と発売される「機能性食品」。血圧を下げる、お腹の調子を整える、歯を丈夫にする等々、その効能もさまざまです。でも、実際に効果はあるのでしょうか?そこで、東京農業大学短期大学部栄養学科の古庄律助教授が、 機能性食品の効果の検証について語ってくれます。


  

「産・官・学」の連携で機能性食品を開発


機能性食品は医薬品とは違い、病気を治すものではありませんが、身体によい成分を手軽に摂取できる点が魅力です。

 ただし、食品である以上、誰もが毎日摂取しても害がないものでなければなりません。そこで、機能性食品を開発する際には、安全性や効果を科学的根拠に基づいて検証することが大切なのです。実際どのように検証していくのかを、われわれの研究を例に説明しましょう。

  この研究は、農林水産省の「平成16年度『ブランド・ニッポン』加工食品供給促進等技術開発事業」の一つ。秋田県湯沢市にある老舗の酒造メーカーと秋田県総合食品研究所、そして東京農業大学という「産・官・学」の3機関が共同で、米を原料にした「ギャバ(GABA)液」の開発に取り組んだものです。

 ギャバの正式名称は「γ-アミノ酪酸」。人間の体内をはじめ動植物界に広く存在するアミノ酸の一種です。健康によいといわれ、とくに血圧を下げる効果が注目されています。というのも、高血圧症は日本人の生活習慣病の代表格である脳卒中や心臓病を引き起こす危険因子。30歳代後半から発症する人が増え、60歳代ではかなりの割合の人が発症するといわれています。そこで、若い時から血圧の上昇を抑える食品を継続的にとれば、将来高血圧症になるのを防げるかもしれないと、ギャバを使ったさまざまな機能性食品が作られているのです。われわれが今回開発したギャバ液もその一つです。



「ギャバ」の血圧降下作用を検証


 開発にあたっては次のような背景がありました。秋田県は良質な米の産地として知られ、昔から日本酒造りがさかんな土地です。しかし、近年は日本酒の消費量が減り、原料である米の生産量も減少気味。そこで、名産の米と伝統ある醸造技術が生かせる新たな加工食品を作ろうと着目したのが、ギャバだったのです。

 製造法は以下のとおり。まず、精米した「米」に乳酸菌とグルタミン酸を添加。すると、乳酸菌が乳酸発酵するのと同時にグルタミン酸をギャバに変えます。ここから抽出した液体をろ過・殺菌したものが、ギャバ含有率1%の「ギャバ液」です。

 ただし、このギャバ液に本当に血圧を下げる効果があるかは調べてみなければわかりません。実はここからがわれわれの出番。すでに高血圧症を発症しているラットにギャバ液を飲ませ、1時間毎に血圧を測定する実験を行ったのです。効果を比較するため、体液程度の薄い食塩水と、濃度100%のギャバの試薬を飲んだ場合の血圧も測定しました。

 3時間後、食塩水を飲んだ場合の血圧は飲む前と変わらず220のまま。やはり、単に水分をとっただけでは血圧は下がりません。しかし、ギャバ液を飲んだ場合の血圧は170。なんと50も下がり、濃度100%のものを飲んだ場合と同程度の高い効果が出たのです。1回の摂取量はわずか10〜20ミリグラムですが、これで5時間ほど効果が持続しました。

また、人間でいえば30歳代にあたる血圧160のラットにギャバを12週間摂取させたところ、その間血圧の上昇が抑えられました。摂取をやめると血圧は元に戻りますが、とり続けさえすれば将来高血圧症を発症するリスクを軽減することもできると考えられます。長期間摂取しても肝機能に異常はなく、副作用もなし。なお、人間の場合もラットとほぼ同じ摂取量で効果が出ることもわかりました。

 ふしぎなことに、ギャバを過剰に摂取したり、健康な人がギャバをとったりしても低血圧にはなりません。これは、人間の身体にある「恒常性を維持する機能」が働いて、健常な人の場合は血圧を正常に保つためと考えられます。というわけで、このギャバ液は安全性、効果とも合格。晴れて酒造メーカーから発売されました。

 

頭がよくなる効果も?

ギャバの効能はこれだけではありません。中性脂肪を抑えて肥満を防ぐほか、精神を安定させる作用や、学習力・記憶力を高める効果もあるといわれています。そう聞くと、がぜん興味がわいてきませんか?
 実は、このギャバ液は秋田県湯沢市の学校給食のパンに使われているのです。昨今、いわゆる「キレやすい子ども」が問題になっていますが、精神安定作用のあるギャバを毎日とることで、こうした傾向が緩和されるのではと期待されています。ほかにも、秋田県名物・稲庭うどんに練りこんだり日本酒に加えたりと、ギャバを使った食品が続々登場。地元産業の活性化につながっています。
 このように大学で行っている研究は、産業や社会のさまざまなところで生きているのです。研究の成果を社会に還元していくこと、そしてそこから新たな産業が芽吹き、人に役立つものへと実を結んでいくことも、農学のおもしろさです。

 

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