武生 雅明 教授
研究テーマ
生物多様性の機能と維持機構、およびその保全手法
里山の自然に学ぶ生物多様性の維持
各地の農村では、過疎化による土地の管理放棄が進むとともに、長年にわたる農薬の使用や大規模圃場整備などで多くの生物が絶滅の危機にさらされています。
例えば、フクジュソウやアズマイチゲをはじめとする春植物。以前は日本各地のいたるところで、春の訪れとともに田畑周辺にお花畑をつくり、絨毯のようにびっしりと咲き乱れていました。春植物のお花畑は、丁寧な草刈りと刈草を集めて堆肥として利用するという伝統的な農業によって生まれ、守られてきました。しかし、高齢化の波が押し寄せる里山では、昔ながらの農法を続けることには限界があります。農業をはじめとする地域の生業と、生物多様性とをバランスよく守っていくにはどうすればいいでしょうか?
実践的な学びで地域活性と自然再生の両立をめざす
自然環境への負荷が少ない昔ながらの農法や、伝統的な生活技術が今でも維持されている一部の里山では、ほかでは見ることのできないさまざまな生物が生息しています。この研究室ではそうした里山に学習拠点を構えています。空き家だった古民家を借り受け、自分たちで修理・清掃して住めるようにしました。調理場には学生たちがつくった薪ストーブがあり、羽釜でごはんを炊くこともできます。
ここでは、お年寄りに聞きながら遊休農地を耕して稲や野菜の栽培に取り組んでいます。その中で田畑土手の草刈り再開や、長年放置され樹木が進入していた刈敷の復元を実験的におこない、春植物の保全方法についての調査を進めています。春植物を含む里山の植物について、昆虫による花粉媒介〜種子生産、地下茎によるクローン繁殖といった繁殖様式の研究や、昆虫による葉の食害を防御する戦略や成長戦略の研究など、現地に長期滞在できる利点を活かした研究をおこなっています。また、地域の農作業や行事にも積極的に参加し、お年寄りとの交流を通じて風土に育まれた生活や生業の知恵と技術を実践的に学んでいます。
こうして得た知識と自らの研究成果を踏まえ、地域における持続可能な産業の発展と生物多様性の維持・再生を両立させるための接点を探っていきます。
自ら課題を解き明かす力を身につける
めざすビジョンは、例えば次のようなものです。春植物でいっぱいのお花畑を見に里山に観光客が集まり、古民家を改装したレストランから美しい景色を眺めながら、地元産の食材をたっぷり使った食事をとる。生物多様性が維持されることで過疎地だった里山が活気に満ち溢れ、地域の活性化につなげることができるかもしれません。
厳しい環境下でしたたかに命をつなぐ生物。「どうやって生きているんだろう」「何が花粉を運んでいるんだろう」と、その生きざまを観察すると心が躍るようにワクワクします。その一方で、お年寄りとの交流には新鮮さだけでなく、難しさや驚きもたっぷりと凝縮されています。研究室での学びを通して、主体的に課題を見つけ、それを解き明かす力を身につけてほしい。そして将来、地域社会で活躍できる人材に育つようバックアップしていきたいと思っています。