ランドスケープ資源・植物分野 造園植物・樹芸学研究室
植物学から生活環境をみる
私達の生活は、様々な生物によって支えられています。なかでも植物は、その生理・生態・形態的機能によって、環境調節に大きく貢献しています。造園は、植物を構成要素として、快適性と美を追求する営みです。私達の研究室では、造園植物の特性や役割等を、生物学的視点から究明します。例えば、里山の希少種の保全と効果的な維持や管理、サクラやユリ科植物等の園芸植物の都市空間への利用、生理・生態学的な特徴からみた雑草等を含む草本植物の利用や管理、樹木医の視点による巨木・老木の在り方について、野外調査や実験により探求します。また、造園植物の時代背景、文化等の社会的調査も実施し、これらを次代に継承するための環境教育も行っています。人の生活と植物の普及、生育との関係を問い、生活の中の植物を自然科学の視点で捉え、みどりと人の関係を考えます。
これまでの成果
1. 日本産ユリ科植物の種子繁殖に関する研究
広義ユリ科には,ジャノヒゲやヤブランの他,ホトトギスやギボウシ,キスゲ,ヤマユリ,ウバユリ,カタクリ,ヤマラッキョウ,ノビル,ニラ,バイモ,スカシユリ,オニユリ,ツルボ,チゴユリ,ツバメオモト,エンレイソウ,アマドコロ,ホウチャクソウ,サルトリイバラ,シオデなど,極めて幅広い植物を含む分類群です。これらの植物は,高山植物,二次林の林床植物,春植物としての観賞用の他に,食用,薬用としても多く利用されてきました。これらの植物を人為的に増殖するためにも,また自然界での繁殖を求めるためにもまずは,生活史の中での種子繁殖の生態を十分に把握する必要があります。これまで春植物としてのカタクリやエンエイソウ,ツバメオモト,ツルボ等の種子発芽習性を明らかにしてきました。
2. 早咲き性サクラの作出に関する研究
日本の国花であるサクラには400を超える品種(雑種)があるといわれています。しかし,近年はそのサクラもソメイヨシノばかり,多くの品種(雑種)も枯死し,なくなっています。当研究室では,実際にサクラの雑種を作出,繁殖し,形態などを比較すると共に,よく知られているサクラの雑種(カワヅザクラやアタミザクラ等)の親種を遺伝子分析などによって調べています。
3. 福島県や山梨県等の一本桜
サクラの巨木(幹周300cm以上)を,一本桜とよんでいます。これまで福島県や山梨県等の一本桜の生育場所とその形態,生育状態を観察,記録し,その生育場所の特徴などを把握してきました。
4. 里山の保全と環境教育
研究室では,神奈川県川崎市早野梅ヶ谷特別緑地保全地区で,自治体と連携しながら里山の保全活動を行っています。11haにおよぶ里山を価値あるものとして維持していくためには地域住民,特に子供達への環境教育が課題になります。本研究室では,定期的に地元の人たちに里山を紹介し,実際に管理作業を共同で行っています。
5. 都市近郊の里山(二次林)の絶滅危惧植物の保全
都市近郊の里山には,かつては生育していたが近年絶滅していたと思われる植物や,絶滅危惧植物が残っていることもあります。まずは,これらの植物の生活史(結実,散布,発芽,生長,開花,受粉)を把握し,生育を困難にしている原因を探り,実際に増殖する必要があります。本研究室では,神奈川県川崎市早野梅ヶ谷特別緑地保全地区でそれらの絶滅したと思われる植物や,絶滅危惧植物の生態を調べ,保存活動を行っています。
6. 東京の巨木
「東京には,自然がない」と思う中,辛うじてその名残になるものを巨木にみることができます。倒木問題や落ち葉問題など,かつては当然保護されてきた巨木も,今や邪魔者扱いの存在,なぜ日本人は巨木を大切にしてきたのか?という問題を通して,東京にある巨木の実態とその意義について調べています。
7. 外来植物の種子発芽
日本の環境で,外来植物はどのように繁殖しているのか? 種子発芽習性に的を絞り,室内実験を行い,分析しています。これまで18年に及ぶ発芽力の維持能力の高さや暖温湿層処理による爆発的な発芽をみる種などを明らかにしてきました。
8. 東京の庭園に残された植物
日本の財産としてある庭園を支えるのは植物です。都内唯一の緑地と化してきた感がある庭園(大名庭園等)に,どのような植物資源が残っているのか? 研究室をあげて調査を行っています。
9. 保育所,幼稚園の園庭の植物
児童期にふれる植物は一生に影響するもの。保育所や幼稚園で毎日遊ぶ園庭にはどのような植物が植えられ,それが子供たちにどのような影響を及ぼすのか?フィールド調査を行ってその実態を調べています。
10. 植物と文化
日本には,なぜ植物に関わる文化が多いのか? その実態と要因を,生物学的,社会科学的視点から調べています。
学生の主な研究テーマ
・ 映像化された景観と現場のプロポ-ション比較による額縁効果に関する研究
・ 大型集合住宅における緑地の位置が街づくりに及ぼす影響
・ 植物材料を使ったレクリエ-ション活動が高齢者の日常活動に及ぼす影響について
・ 土壌と水耕液のpHの違いがヤブツバキの健康状態に及ぼす影響について
・ 日本でエスパリアとして利用可能な樹種についての考察
・ 街路樹の剪定時期の違いによる樹形の変化
・ 都市空間における造園材料としてのナギの有用性に関する研究
所属教員
Free talk 1
造園植物・樹芸研究室(通称樹芸研)では,メリハリのきいた生活ができます。真面目過ぎず不真面目過ぎず,でもみんな真面目です。いつも感動が得られる研究室です。お陰で鈍くなっていた感性が磨かれました。先生は,学問に対して厳しいのですが,自然の中では童心に戻っています。山歩きは速い(前世はカモシカかも?)です。先生は,教室は営業の顔,研究室が本当の顔とよく言います。樹芸研の院生は,お姉さんやお兄さんのようにとても優しいです。困ったときの院生頼み。コンペ(設計競技)に挑戦して特別賞をもらいました。みんなが「ヤリガイ」を飼い始めました。同じ学年の学生は大変仲が良く,特に4年生は卒論を通して家族のようです。
研究室に入室して,部活動以外の人と話すことができ視野が広がりました。学生同士の会話とは違い,院生や先生などの情報や意見・考え方などを聞きながら話し合うことでさまざまなことを学び,自分の考えをもつことができました。また,先生の所へ役所の方や会社の方などいろいろな来客が多くあり,これらの方々と接することで実社会の最新情報に触れることと目上の人との応対の仕方を学びました。樹木研は,実社会と直結していることを痛感します。また,コンペ(設計競技)や食と農の博物館での展示へ向けての作品づくりは,社会への情報発信の1つで,研究室全員が1つになり同じ目標に向かって活動し学ぶことができたと思います。この研究室で学んだことは,あるものやあることについて自分たちが手に入れた知見を形にする力です。
Free talk 2
樹芸研は,卒論が厳しいことで有名ですが,社会で出る前の良いトレーニングになったと思います。ふだん疑問に思っていることや造園の勉強をしてきて更に詳しく知りたくなったことなど,学生個人の興味から研究対象を絞っていきます。先生からの指導を受けながら取り組む中で,時々壁にぶつかり,それを1つ1つ乗り越えて論文としてまとめることができと時の喜びは,とても充実感に満ちていました。抽象的なものからデータを得るための調査の重要性と大変さ,小さなことを調べるにも時間がかかることなど,計画的にものごとを進めることの重要性を再認識しました。研究を進める中で自己責任を意識するようになりました。他の研究室に比較してやや室員が少なめですが,その分卒論指導は中身の濃いものでした。また室員同士1人1人をよく知ることができました。大変仲の良い一生付き合える仲間を得ることができました。
Free talk 3
樹木研(2016年)の室員となり,調査,見学会などさまざまな活動へ参加することができました。明治神宮の見学では,林苑を管理している担当者の方と一緒に,一般の人が入れない森の中を歩きながら説明を聞いたり,花菖蒲を観賞しながら種類や栽培のお話を聞いたり貴重な経験をすることができました。明治神宮の森からデータをとり修士論文を書いた先輩もいて,明治神宮の方は,この森を樹木研代々木演習林と言っていました。2009年の合宿は,北海道の帯広へ行き北方の植木生産の現場や自然の森を観察し,ふだん見ることのできない植物や大自然を直接見て経験することができました。研究室の合宿は,個人では行きにくい場所へ出かけていますので,貴重な経験をすることができます。