田中 尚人 教授
研究テーマ
乳酸菌を対象とした網羅的多相解析システムの確立
次世代シーケンサーから得られる膨大な遺伝子に関わる情報を解析
この研究室は、細菌や酵母、カビなどの微生物を1960年から収集・保存してきた東京農業大学菌株保存室を前身としています。
「バイオインフォマティクス」は、生命科学に情報科学の知恵を組み合わせた研究分野。最新鋭の「次世代シーケンサー(DNA解析機器)」が誕生し、微生物の膨大な遺伝情報が容易に取得できる時代になりました。しかし生命科学の知識はあるものの、それを解読する情報処理技術を合わせもつバイオインフォマティシャンは世界的に不足しています。私たちは、バイオインフォマティクスをマスターした人材の育成をめざし、さらに新たなデータの処理システムの開発にも取り組みます。
人の生活に役立つ乳酸菌を探す
微生物がもつ機能は、発酵食品や抗生物質、飼料の製造など、幅広い分野で生かされています。中でも、この研究室で力を入れるのが乳酸菌のさまざまな機能の活用です。
例えば、チョコレートなどに配合されることが多い「GABA」は、精神を安定させる機能をもつ機能性成分であり、微生物の中でも特に乳酸菌の利用が注目されています。ただ、乳酸菌の種類や菌株によっては産生することができません。それぞれの菌がGABAを産生できるかどうかを判断するために、従来は培養実験で菌を一つひとつ検証しなければなりませんでした。しかし、次世代シーケンスを用いれば、膨大な乳酸菌ゲノム情報の中から「GABAを産生する乳酸菌の遺伝情報」を照合することによって菌がもつ能力を推測することができ、効率的に菌株を選び出すことができるようになります。ほかにも同様の手法で乳酸菌のもつさまざまな機能を見つけ出すことをめざします。
微生物を内側から眺め、生命の仕組みに迫る
研究テーマには、ほかにも、新種の微生物の探索や、進化の道筋を探るといったさまざまなものがあります。ほかの研究室との共同研究をおこなう機会も多くあるので、学びの世界を広げていくことができることでしょう。
バイオインフォマティクス研究室の面白さは、微生物がもつ未知の生命現象を発見できるところではないでしょうか。これまでの微生物研究は、現象を外側から観察するという方法が中心でしたが、情報科学を自在に解析する技術を用いれば、微生物の秘密を内側から解き明かすことができます。別視点から微生物を眺めることで、微生物の知られざる「顔」が見えてくる。そこから、まったく新しい知見を得ることができるはずです。