微生物の研究がきっかけで、隣接分野にも興味が広がった。
新井 俊晃さん
農学研究科 バイオサイエンス専攻/資源生物工学研究室(平成29年4月より 生命科学部 分子微生物学科 資源生物工学研究室へ名称変更)平成20年3月卒業 博士後期課程修了/和光純薬工業(株)勤務
微生物の研究がきっかけで、隣接分野にも興味が広がった
実家はナメコ栽培農家で、私にとって農や食、微生物はとても身近なものでした。それでもなお、分からなかったのが「なぜ、微生物からキノコができるのか?」ということ。こうした微生物の謎を追究するため、東京農大に入学しました。
入学後は、所属学科以外でも他学科聴講で微生物の基礎を徹底的に学び、3年次からは微生物をテーマに扱う研究室に所属しました。自然界から有用微生物のスクリーニングをおこなう研究を通じ、環境に応じてさまざまな能力を発揮する微生物の可能性に改めて魅せられました。
大学の卒業研究や大学院では、バイオマスの有効利用菌として単離された好アルカリ性菌の酸化ストレス応答機構について研究し、博士号を取得しました。病原性菌は宿主の食細胞からの攻撃から身を守るため、酸化ストレスに対する適応能力が高いことから、病原性菌に関する数多くの論文を読みました。その過程で、農学分野から医学分野にも関心が広がっていきました。
研究を通じ、社会に貢献できることが最大の喜び
そもそも微生物学は、医学と発酵の分野の応用研究として発展してきた歴史があり、人類は微生物と密接に関わっています。また、ひと口に微生物と言っても、人類に有用なもの、そうではないものに大別できます。私はそれぞれに関する基礎研究と応用研究をおこなってきましたが、どのような微生物であっても、どれだけ研究を重ねても、微生物の能力や多様性には興味が尽きません。
現在は、臨床検査薬の研究開発に携わっています。臨床検査薬とは、患者や健常人の診断のために用いられる医薬品のひとつで、医師による病気の診断、治療方針の決定、予後の判定を行う上でなくてはならない情報を得るための検査試薬です。患者から採取した血液などの検体により、免疫反応や遺伝子増幅等を利用して病気の診断をおこなうのです。
入社直後に担当したのは、血清を用いてピロリ菌感染者を判定するための検査薬の研究でした。上市されている製品の感度や特異度を向上させることが目的で、日本人のピロリ菌感染を効率良く検出するための菌株のスクリーニングや測定試薬の感度アップなどをおこないました。
自分が担当した検査薬が使われている場面に、実際に立ち会う機会はありませんが、自分が携わった試薬の有用性が医師の方々に評価され学会発表や論文化された際には、社会に貢献できているのだと嬉しく感じます。
東京農大での日々が、研究者としての基礎を育んでくれた
私の場合、食を中心とした分野から検査薬業界という異分野に入りましたが、研究における考え方や基礎技術は共通して役に立つことを感じています。このことは、東京農大で徹底的に基礎研究に打ち込めたおかげですし、応用研究を経て、より幅広い視点を持ちながら自分の興味を追究することができました。
現在の目標は、病態の早期発見を可能にする体外診断薬を開発すること。微生物分野にとらわれずに幅広い分野でバイオマーカーを探索しており、いまもなお勉強の日々です。