東京農業大学

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生命をつなぐ、「遺伝子」って何だろう。

植物の水環境情報統御機構の解明に向けて

 陸地という環境において、植物は日々変動する利用可能な水環境への適応機構の確立が必須です。これまでの研究からは、水の利用が限定される「乾燥」と、植物体を覆うほどの多量の水環境による「冠水」は、それぞれ別々のシグナル経路で応答が制御されていると考えられてきました。乾燥応答は植物が乾燥に曝されることで蓄積される植物ホルモンABAが制御し、冠水回避応答は主にエチレンにより制御されます。私達の研究室では、地面から数cmの高さにしか生育せず、乾燥と冠水という相反する水環境に短期間で容易に繰り返し曝されるモデルコケ植物ヒメツリガネゴケに着目しました。様々な器官・組織が分化した被子植物と異なり、コケ植物を用いた研究では、その基本となる細胞レベルでの自律的な制御系を最も単純化した形で解析できる利点があります。ヒメツリガネゴケはその生活環のほとんどが単相(n)であり、遺伝子ターゲティングおよびゲノム編集の効率も高いことから、短期間で様々な変異体を作出し、表現型を解析することが可能です。

 2015年にモデルコケ植物ヒメツリガネゴケを用いて、乾燥から冠水まで、幅広い水利用環境の情報統合因子として機能するB-RAFキナーゼを世界に先駆け発見しました (PNASに掲載)。私達の発見をきっかけに、B-RAFが被子植物においても浸透圧応答を制御していることが次々と報告され、植物の浸透圧応答の新たなモデルが提唱されました。そして2022年に私達は、バクテリアにおいて環境センサーとして機能することが知られていたセンサーヒスチジンキナーゼ (HK)が、ヒメツリガネゴケにおいてB-RAFと小胞体で結合し活性を制御していることを明らかにし(Current Biologyに掲載)、ヒメツリガネゴケにおいて、HKとB-RAFから構成される複合体が水の利用が制限される「乾燥」と植物体が水没する「冠水」という、両極端な水環境への応答を制御するセンシングユニットとして働いているというモデルを提唱しました(下図)。

 私達の研究は、ヒメツリガネゴケ研究がコケ植物の知見にとどまらず、被子植物が有しながらもこれまで明らかにされてこなかった環境情報処理システムの発見へと繋がることを示しました。進行する地球規模の環境変化において、水環境に対する作物のレジリエンス向上は重要課題です。引き続き、ヒメツリガネゴケを用いて植物の水環境情報統御の分子基盤を明らかにしていくことは、食糧・エネルギー問題解決への基盤技術構築に貢献すると考えています。

植物が砂漠化・地球温暖化に適応するための遺伝子を探索

 灌漑農業の弊害として生じる塩害は農作物の減収(年間およそ273億USドルの経済損失)を引き起こす大きな問題で、砂漠化の主要原因でもあります。これまでに多くの研究者が植物の耐塩性を向上させるための基礎研究、さらにはその成果を利用した作物育種に取り組んできたものの、未だに応用面で十分な成果が得られていません。そこで私達は植物の多様性に解決の糸口を見出すことにしました。つまり「イネのことはイネに聞け、耐性のことは耐性植物に聞け」です。自然界には極めて高い耐性を示す植物が存在しますが、未だその耐性メカニズムや耐性の有無を決定する遺伝子はほとんど分かっていません。これを紐解けば、基礎研究として大きなインパクトを持つのみならず、地球レベルの環境問題や食糧問題を解決するカギとなるかもしれません。
 モデル植物のシロイヌナズナ(雑草)は、世界中の様々な地域に生息し、これまでに2000系統以上収集されています。私達はこれまでに、数百系統のシロイヌナズナを比較することで、ACQOSと名付けた遺伝子が水不足耐性の有無を決定することを明らかにしました(Nature Plantsに掲載_研究内容の詳細は下記リンク先のPDFをご一読下さい)。

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