【研究室紹介】 持続可能な開発目標(SDGs)Goal 2「飢餓をゼロに」の達成を目指して
国際食料情報学部 国際農業開発学科 熱帯作物学研究室
教授 入江 憲治
熱帯作物学研究室は、熱帯・亜熱帯地域で栽培されている農作物や熱帯原産の有用植物資源を対象に、その特性解明および新規利用法の開発、栽培技術の開発・改良に重点を置いた研究を行っています。現在、15人の大学院生(8人の海外留学生)と約50人の学部生が研究室に所属し、大学院生を中心にさまざまな研究課題に取り組んでいます。
遺伝資源の保全と育種利用
近年、気候変動による地球温暖化は、干ばつや高温障害、新たな病害虫の拡大などの問題を引き起こし、農業の安定生産にも影響を与えています。このような問題に対応するため、新たな品種育成を進める必要があり、そのためには多様な遺伝的形質を持つ遺伝資源が必要不可欠です。私たちの研究室では、1000品種・系統のイネをはじめ、さまざまな作物の遺伝資源を保有しています。宮古亜熱帯農場では、農場と協力し、ヤムイモ100系統およびタロイモ300系統の遺伝資源をフィールド保存し、研究に役立てています。例えば、イネでは世界中の品種を活用し、高温ストレス、乾燥ストレス、アルカリ土壌など環境ストレスに強い新品種の育成を目指しています。ミャンマーでは、毎年アブラナ科野菜類の遺伝資源探索収集を行い、高温ストレス耐性やウイルス抵抗性などの特性評価を行っています。また同国から導入したラッカセイの地方品種には、乾燥ストレス下においても窒素固定能力の高い品種が見いだされ、耐干性高収量品種の育成を目指しています。
1993年にパプアニューギニアのヤムイモ遺伝資源の探索収集から始まった、ヤムイモ研究は、本研究室の研究の柱として長く続けてきました。研究テーマは多岐にわたり、これまでにもさまざまな成果を上げてきました。最近、ダイジョなどのヤムイモが窒素固定能力を持つ細菌と共生する植物であることが明らかになり、ヤムイモから分離された窒素固定菌と生育との共生関係を解明する研究を進めています。また日本のヤムイモであるジネンジョとナガイモの種間および種内・品種間類縁関係を解析し、それぞれの品種群を簡易的に識別できる指標の開発に取り組んでいます。
このように多様な遺伝資源を活用し、品種改良において不可欠な遺伝子の情報を蓄積することで、必要な遺伝子を一つずつ積み上げていく、遺伝子ピラミディングによるデザイン育種が可能となります。
国際農業研究と人材育成
熱帯作物学研究室は、国内外の機関と連携した研究活動を推進しています。西アフリカのナイジェリアでは、2012年に国際熱帯農業研究所(International Institute of Tropical Agriculture)と共同研究契約(MoU)を交わし、ヤムイモ生産技術開発の研究に取り組んでいます。東アフリカのケニアでは、バイオバーシティ・インターナショナル(国際植物遺伝資源研究所)と協働で、農業生物多様性による栄養改善を目指した、「アフリカ地域の生活習慣や食文化に適応した新たな栄養評価法の開発」の研究を行っています。このような海外で行うフィールド研究は、学生と共に取り組んでおり、学生を人間的に成長させるとともに、実践的な知識や経験および技術が身に付き、グローバルに活躍する人材を育成する教育を目指しています。
ミャンマー産ラッカセイ遺伝資源の乾燥ストレス耐性の研究
IITAにおけるヤムイモ窒素固定能力の研究(ナイジェリア)
バイオダイバーシティと連携した農業多様性と栄養調査(ケニア)