スーパー公務員|寺本英仁さん
ズームアップ
寺本 英仁さん(平成6年拓殖学科卒)
過疎の町を活性化
〝スーパー公務員〟
島根県邑南町 商工観光課 調整監
「食と農」を切り札に、過疎化している町を地産地消で盛り上げた〝スーパー公務員〟寺本英仁さん。NHKプロフェッショナル 仕事の流儀で紹介されるほど注目を集めている。「にっぽんA級(永久)グルメのまち連合」のアドバイザーとしてその心と手法を全国に広めている。寺本さんに取り組みの一端を紹介していただいた。
平成6年に東京農業大学拓殖学科を卒業後、実家のある島根県の石見町(現邑南町)役場に入庁しました。最初に所属した産業振興課では、林業係で造林担当をしました。慣れない山歩きに悪戦苦闘しました。
自分が東京農大卒業でなければ、産業振興の部署に回されることもなく、ホワイトカラーの道を選べたのにと、大学を逆恨みした時期もありました。しかし公務員人生も今年で25年。町の「食と農」の取り組みに、一貫して関われたのは、東京農業大学を卒業したからだと、今では「感謝」と言う言葉だけでは表せない思いです。
当時を振り返れば、石見町時代の松本潤町長も東京農業大学農業経済学科卒業ということもあって、僕に多分の期待をしてくれていたのでしょう。当の僕は大学時代に覚えた水中写真にどっぷりはまり、のんびりと公務員ライフを満喫していました。
そんな安泰な公務員生活も10年、平成の町村大合併を迎え、石見町も合併をし、邑南町(旧羽須美村・旧瑞穂町・旧石見町)となりました。
島根県は過疎発祥の地と言われます。邑南町も当時少子高齢化が急激に進み、元気がない状況でした。僕が住んでいる地域の保育所や小学校も廃園・廃校となり、身の回りの状況の変化に驚きました。それから、心を入れ替え、「何か町のためにできないか」と動き始めたのです。実際やってみると、自分の力量のなさを痛感しました。
町の特産品である石見和牛肉を東京に売り込みに行くと、年間200頭しか生産されないことを知らずに200頭分のヒレ肉の発注を2週間で受けてしまい、生産者を混乱させることもありました。振り返るとおかしくなるような話ですが、当時は真剣そのものでした。
そんな中、欧州のミシュランの星付きレストランは地方にあるという新聞記事を読みました。日本のミシュランの星付きレストランは東京・大阪・京都など大都市に多く、地方は都市に食材を供給するにとどまっています。人口1万人の邑南町の少量多品目の農産物を逆手にとり、「邑南町にまでわざわざ食べに来る施策=A級グルメ構想」を打ち出しました。
23年には、町営イタリアンレストランAJIKURAを立ち上げました。
「AJIKURAのランチは当時、島根県の中山間地にありながら、銀座のランチよりも値段が高い」と話題を呼び多くのメディアに取り上げられました。
そして、基幹産業が農業の町だからこそ料理人を町で育成するというコンセプトで「耕すシェフ」という研修制度を創設しました。都会の料理人を呼び、町が滞在費を3年間支給して一流の料理人を育成する制度です。
合併して今年で15年を迎えますが、その成果も次第に出ています。町には直近3年間で870人の若者が移住し、23軒のお店も生まれました。
過疎の町から今では全国有数の「おいしい町」に生まれ変わったのです。
僕がここまでできたのは、関わった町の人がいつも自分を後方で支援してくれたからだと思います。