大学院|五野日路子さん
大学院
五野日路子さん
東京農業大学大学院 国際農業開発学専攻
博士後期課程2年 農業開発経済学研究室
五野さんは、幼い頃から海外に 強い興味を抱いていた。小学5年生の時に香港を訪れ、そこで見た 現地の状況に衝撃を受けて、「国際協力」という仕事が将来の視野に入ってきた。「その頃はまだ香港が中国へ返 還される前でしたが、生まれて初めて国内における深刻な貧富の差 を目の当たりにしました。きらびやかな街中とは対照的に、山間部では電気も上下水も十分ではない 現状をみました。また、私と同じ年もしくは小さな子供たちがいたる ところでトイレ用のちり紙を売っている姿に強い衝撃を受けました」
その後、ホームステイや国際交 流事業を通してイギリスやアメリ カ、オーストラリアの人々との異 文化交流を数多く経験していく が、やはり忘れられないのは香港 の記憶だった。「貧しい人たちの ために何ができるのかを考えるようになりました。そんな中、青年 海外協力隊のことを知り、たどり着いたのが農大の国際農業開発学科でした」
五野さんは、「国際協力の現場で活躍できる人材を育成する」と いう学科の理念に、まるで天啓を受けたかのように、瞬間的に「ここしかない ‼ 」と思ったという。 そして、東京農大の国際農業開発学科に進学。卒業後は青年海外協力隊に参加すると、五野さんは決めていた。
学部時代にタイ、インド、西アフリカのニジェールを訪れ、五野さんは現地の農業、農村の暮らしに触れた。中でも、青年海外協力隊の短期派遣で行ったニジェールでの経験が、同隊長期派遣への参加を決定づけた。「実際に現場の活動に関わり、アフリカの農業、 そして農村開発の現場から問題を 探りたいという思いが強くなりました」
五野さんは思いをかなえ、マラ ウイの村落開発普及員(現‥コミュニティー開発)として2年間活動した。現地の農村世帯が抱える 現状を目の当たりにし、どうすれ ば問題を克服する手助けができるかを模索する。「配属先であった農業省(地方 開発事務所)の仕事を通して、貧しい世帯への支援や脆弱性を克服 するための手助けとなる政策の重要性と問題を考える機会を得ました。あの2年間の経験が、大学院への進学と、現在の研究テーマ『マラウイにおける農村生計と社 会的保護政策の影響』につながっています」
一般的に、「政策」の影響を明らかにする際には、平均的な傾向を捉えるために国レベルの統計デー タを用いた大規模な計量分析を行う。しかし、それだけでは、異なる条件を持つ地域の特徴や、実際に政策の恩恵を受ける世帯の変化を詳細に捉えることができない。
「私の研究では、政策の影響を 実際に政策の恩恵を受ける世帯レ ベルから明らかにしていくことを目的としています」。〝マクロに捉えてミクロに分析する〞視点が、五野さんが所属する研究室のモットーだ。
フィールド調査では、村内の世帯を1世帯ずつ訪問し、聞き取りや圃面積の計測を行う。その 際、相手に椅子を用意されても決して座らない。「村の人と同じ目線に立つことを心がけています。それは、相手を理解する上で 『 Understand 下に立つ』ことが重要だと考えるからです。こちらが相手より低い目線で話せば、村の人たちは安心した表情で話をしてくれます」。そうして得られた データだからこそ、世帯ごとの特 徴も、政策の実施現場で生じる事象も、詳細に捉えることができる。
「アフリカ農村を豊かにしたい」という思いを常に抱いている、という五野さん。自身の研究 が、アフリカの貧困削減や貧困世 帯の脆弱性克服の手助けとなる政 策の提言や、プロジェクトの立案 にながることを目指している。目 標は「現場の視点、様々な立場、 その場その場の現状を比較参照で きる研究者」だ。
最後に、後輩たちへのメッセージを聞いた。「この学科は、実践的に国際農業開発について、国際協力の現場経験が豊富な先生方からの直接的な指導を受けられ、留学生との英語ディスカッションを交えた講義で多くの刺激があり、価値観の多様さを知ることができます。将来、国際協力に携わりたい学生にとって魅力いっぱい。国際協力の現場で大切なことは日々の学生生活の中でも 教わっているように思いま す」。五野さんは、今日も日常生活から 世界を学び続ける。
(THE NEWS東京農大第084号より転載)