食料経済分野 消費行動研究室
消費者データから食の消費を科学する
「なぜその食品を消費するのか」、「その食品を消費することによって社会にどのような影響をもたらすのか」、そして、「消費者を幸せにする食品とは何か」。私たちの研究室では、消費者行動論やマーケティング論、経済学を中心に、社会心理学、認知科学などの他の学問分野からの知見も活用し、これらの課題解決に取り組んでいます。具体的には、企業やJA(農協)による商品開発の現場に密着したインタビュー調査、消費者を対象としたアンケート調査や購買行動実験、スーパーや直売所での店頭観察調査などの様々なデータの分析を通して、食に関する消費行動を明らかにしていくとともに、新商品開発や新サービスの提案までを手掛けていきます。
所属教員
学生の研究テーマ
農産物直売所における青果物コーナーの新提案
企業やJA(農協)との連携による新商品開発
若者の食行動に関する研究
インターネットショッピングの利用動向に関する研究
2022年度の研究テーマ・研究活動
消費行動が農山村地域の地域愛着に与える影響 :徳島県上勝町、福島県大玉村を事例に
2022 年の消費行動研究室の研究活動では、徳島県上勝町、福島県大玉村を事例に、消費行動が農山村地域への地域愛着に与える影響に関する研究を実施した。地域活性化の手段として地域住民の地域に対する“愛着”と、広義においてその地域のファンを意味する関係人口に注目した。研究を進めるにあたり、ヒアリング班、農山村地域住民アンケート班、都市部住民アンケート班の 3 班に分かれて作業を分担した。研究の概要は以下の通りである。
ヒアリング班では,福島県大玉村村,徳島県上勝町の 2 箇所において自治体,生産者,農産物直売所などで地域おこしの取り組みや事業,愛着についてヒアリング調査を行うことで,地域愛着醸成と関係人口創出・拡大の可能性を検討した。これにより、関係人口増加に向けた地域愛着による取り組みの自治体ごとの特徴を一定程度明らかにすることができた。
都市部住民アンケート班では、農山村地域への愛着を高める規定要因を明らかにすることを目的とし、都市部で行われる大玉村農産物販売マルシェでアンケート調査を行った。大玉村に対する愛着の意識の項目を用いて因子分析を行い、愛着を類型化した後、パス解析を行った。結果、マルシェの訪問者に対して見た風景や体験に特別感を抱かせることで更なる訪問に繋がり,地域愛着を高め地域活性化につながることが期待された。
農山村地域住民アンケート班では、福島県大玉村の農産物直売所の利用者にアンケート調査を行うことで、地域愛着に及ぼす影響要因に食品購買行動がどのように関係し、どれほどの影響力を持つのか検討した。アンケートの全項目の合計値を目的変数、各質問項目を説明変数として重回帰分析を行なった。結果、購買経験での地域愛着は見られなかったが、消費者からの商品への印象と地域愛着の関係性は見られたため、地域住民の地域に対する愛着を向上させる方法の一つとして、食料品購買行動の観点からのアプローチは有効であることが明らかとなった。
2021年度の研究活動
若年層における喫茶店利用と地域コミュニティ
消費行動研究室では、「消費者データから食の消費を科学する」ことをテーマに活動を行っている。
2021 年度の消費行動研究室の研究活動では、若年層における喫茶店利用と地域のコミュニティに関する研究をメインとして行った。
喫茶店に関しては、個人経営とチェーン系の2 つに分類、地域コミュニティに関してはソーシャル・キャピタル(以下、SC)指標という人間関係や信頼を表す指標を用いて調査した。このメインの研究に沿って、異なる視点、調査方法、分析方法を用いて3 つの研究を行った。
1 つ目の研究は、個人経営の喫茶店が、地域活動への参加に受動的態度を示す若年層が地域コミュニティへ参加する機会として有効な場になりうるという仮説を立て、消費者へのアンケート調査から検証した。個人に付置されているSC の主成分分析や地域への関わりを分析した。分析の結果、個人経営の喫茶店が地域コミュニティの拠点となる可能性をもつことを明らかにした。
2 つ目の研究は、喫茶店の地域や若年層との関わり方を調査し、喫茶店が若者の地域参画のきっかけを与える場となる可能性を検討した。喫茶店へのアンケートやヒアリングの結果、常連客を通じて大学生まで交流の範囲を広めるという方策や、振興組合と連携を図ることで、喫茶店内での交流を昇華し、喫茶店が地域活性化の確たる拠点とする方策などが確認できた。
3 つ目の研究は、若年層で利用率の高いSNS において喫茶店に関する投稿を見る際、SC に関する情報への注目度や印象を視線計測調査により検証した。分析の結果、SC が高い人は投稿の中でも感想に注目しており、他社の意見に関心がある一方、SC が低い人は写真に注目しており、イメージを重視する傾向にあることを明らかにした。
2020年度 研究テーマ
コロナ禍における大学生の消費行動研究
2020 年度の消費行動研究室の研究活動では、世界中に混乱と恐怖を与えたコロナ禍に おける大学生の消費行動をメインテーマとして、異なる 3 つの視点からサブテーマを設け、 研究を行った。各サブテーマの研究概要は以下のとおりである。
テーマ 1 では、緊急事態宣言下での外出自粛、学校休校、バイト先の休業をうけ余暇時 間が増えた大学生の SNS 利用時間の増加と、Instagram で流行した「#️ ダルゴナコーヒー」 「#おうち café」など料理投稿の増加に着目し、新しい購買行動モデル ULSSAS を用いて、 Instagram の優位性を検証した。分析の結果、大学生の調理行動と SNS の関係性、およ び Instagram の優位性を確認できた。
テーマ 2 では、新型コロナウイルスに対する不安感が、食料品の購買行動に及ぼす影響 を研究した。利己的・利他的消費に着目し「利己的買い溜め」「利他的買い溜め」「利己的 買い控え」「利他的買い控え」の 4 つの購買行動を取り上げた。コロナ禍の買い溜め・買 い控え行動の実態や不安感の構造を把握した後、回帰分析を用いてこれらの購買行動と不 安感の関係を分析した。分析の結果、大学生においては、学校への不安といった学生特有 のものも含めて不安感が「買い溜め・買い控え行動」に影響を及ぼすことを明らかにした。 テーマ 3 では、コロナ禍での食事形態選択に対して時間・リスク選好が及ぼす影響につ いて大学生を対象に研究を行った。食事準備時間と、準備をするにあたり感染するリスク の 2 軸を中心に食事形態を細分化し、時間・リスク選好がこれら食事形態選択に及ぼす影 響を分析した。回帰分析の結果、時間に対して我慢強い人はネット注文型デリバリーなど の食事準備時間が比較的長い食事形態を、リスクに対して比較的中立的な人はモバイル端 末を利用したテイクアウト等の食事形態をよく利用することが明らかになった。