食料経済分野 消費行動研究室
食品流通のグローバル化や少子高齢化の進展等、わが国の食消費を取り巻く環境は大きく変容している。そこでは、消費者の行動を科学的に把握した上で、それらを用いてマーケティング方策や政策を提言することが重要である。当研究室では、官公庁の統計データ、実験やアンケート調査から得られる消費者データを用いて、食に関する消費者行動についての研究を行っている。
KEYWORDS
意思決定過程、消費者行動、食事選択、商品選択、行動インサイト(行動経済学)、アイトラッカー
消費者データから食の消費を科学する
「なぜその食品を消費するのか」、「その食品を消費することによって社会にどのような影響をもたらすのか」、そして、「消費者を幸せにする食品とは何か」。私たちの研究室では、消費者行動論やマーケティング論、経済学を中心に、社会心理学、認知科学などの他の学問分野からの知見も活用し、これらの課題解決に取り組んでいます。具体的には、企業やJA(農協)による商品開発の現場に密着したインタビュー調査、消費者を対象としたアンケート調査や購買行動実験、スーパーや直売所での店頭観察調査などの様々なデータの分析を通して、食に関する消費行動を明らかにしていくとともに、新商品開発や新サービスの提案までを手掛けていきます。
所属教員
学生の研究テーマ
農産物直売所における青果物コーナーの新提案
企業やJA(農協)との連携による新商品開発
若者の食行動に関する研究
インターネットショッピングの利用動向に関する研究
2023年度の研究テーマ・研究活動
2023 年の消費行動研究室の研究活動では、規格外農産物の廃棄問題に注目し、規格外農産物の消費拡大に向けた販売システムのあり方に関する研究を実施した。規格外農産物は徐々に普及してきているが、消費者が多く利用しているスーパーでの取り組みは未だ導入期の状況である。本研究では、規格外農産物の販売に関して特徴ある取り組みを行う食料品店舗のヒアリングを行うとともに、消費者の規格外農産物に対する購買意向、それを高めるための有効な情報の内容をアンケート調査によって分析してきた。
規格外農産物の消費拡大においては、消費者の“農業に対する意識”と“規格外農産物に対する理解”が必要であり、それらの構築は生産者と消費者の関係性が鍵を握ると考えられる。そこで、本研究ではスーパー・直売所・CSA の3つの販売システムに注目した。
各販売システムへのヒアリングと消費者アンケートの結果から、直売所と CSA は流通特性から規格外農産物を販売できるシステムが構築されており、利用者は規格外農産物に対して寛容で、農業への関心度が高いことが分かった。一方でスーパーは規格外農産物を販売することで利益を生み出すことが現状困難であり、利用者の農業への関心も直売所と CSA に比べ低いことが明らかとなった。
こうしたスーパーの利用者を対象に、規格外農産物の購買意向の規定要因を、農業に関する体験に着目し因子分析、パス解析を用いて検討した。その結果、スーパーの利用者であっても、農作業体験や観光農園での体験が「農業を応援しよう」という意識を醸成し、規格外農産物の購買意向を高める可能性が示唆された。
規格外農産物を生鮮品として販売するにおいて、購買意向を高める情報について選択実験を用いて検討した。結果、「生産者の顔」を付与することは、規格がある農産物ならず規格外農産物でも効果がある可能性があること、生産者情報を全く付与しない場合であっても、「規格外品農産物は規格がある農産物に対して味に劣位がなく、それを購入しないことは損失であること」を伝えると消費者の評価が高まる可能性があることが示された。
加工品として販売するにおいては、消費者が求める加工品の付加価値を Best Worst Scaling を用いて定量的に明らかにした。結果、「食品ロス削減に貢献できること」の情報を付与することは重要であり、現在取り組みの少ない「有機野菜が使われている」も新たな商品になる可能性が示唆された。
2022年度の研究テーマ・研究活動
消費行動が農山村地域の地域愛着に与える影響 :徳島県上勝町、福島県大玉村を事例に
2022 年の消費行動研究室の研究活動では、徳島県上勝町、福島県大玉村を事例に、消費行動が農山村地域への地域愛着に与える影響に関する研究を実施した。地域活性化の手段として地域住民の地域に対する“愛着”と、広義においてその地域のファンを意味する関係人口に注目した。研究を進めるにあたり、ヒアリング班、農山村地域住民アンケート班、都市部住民アンケート班の 3 班に分かれて作業を分担した。研究の概要は以下の通りである。
ヒアリング班では,福島県大玉村村,徳島県上勝町の 2 箇所において自治体,生産者,農産物直売所などで地域おこしの取り組みや事業,愛着についてヒアリング調査を行うことで,地域愛着醸成と関係人口創出・拡大の可能性を検討した。これにより、関係人口増加に向けた地域愛着による取り組みの自治体ごとの特徴を一定程度明らかにすることができた。
都市部住民アンケート班では、農山村地域への愛着を高める規定要因を明らかにすることを目的とし、都市部で行われる大玉村農産物販売マルシェでアンケート調査を行った。大玉村に対する愛着の意識の項目を用いて因子分析を行い、愛着を類型化した後、パス解析を行った。結果、マルシェの訪問者に対して見た風景や体験に特別感を抱かせることで更なる訪問に繋がり,地域愛着を高め地域活性化につながることが期待された。
農山村地域住民アンケート班では、福島県大玉村の農産物直売所の利用者にアンケート調査を行うことで、地域愛着に及ぼす影響要因に食品購買行動がどのように関係し、どれほどの影響力を持つのか検討した。アンケートの全項目の合計値を目的変数、各質問項目を説明変数として重回帰分析を行なった。結果、購買経験での地域愛着は見られなかったが、消費者からの商品への印象と地域愛着の関係性は見られたため、地域住民の地域に対する愛着を向上させる方法の一つとして、食料品購買行動の観点からのアプローチは有効であることが明らかとなった。
2021年度の研究活動
若年層における喫茶店利用と地域コミュニティ
消費行動研究室では、「消費者データから食の消費を科学する」ことをテーマに活動を行っている。
2021 年度の消費行動研究室の研究活動では、若年層における喫茶店利用と地域のコミュニティに関する研究をメインとして行った。
喫茶店に関しては、個人経営とチェーン系の2 つに分類、地域コミュニティに関してはソーシャル・キャピタル(以下、SC)指標という人間関係や信頼を表す指標を用いて調査した。このメインの研究に沿って、異なる視点、調査方法、分析方法を用いて3 つの研究を行った。
1 つ目の研究は、個人経営の喫茶店が、地域活動への参加に受動的態度を示す若年層が地域コミュニティへ参加する機会として有効な場になりうるという仮説を立て、消費者へのアンケート調査から検証した。個人に付置されているSC の主成分分析や地域への関わりを分析した。分析の結果、個人経営の喫茶店が地域コミュニティの拠点となる可能性をもつことを明らかにした。
2 つ目の研究は、喫茶店の地域や若年層との関わり方を調査し、喫茶店が若者の地域参画のきっかけを与える場となる可能性を検討した。喫茶店へのアンケートやヒアリングの結果、常連客を通じて大学生まで交流の範囲を広めるという方策や、振興組合と連携を図ることで、喫茶店内での交流を昇華し、喫茶店が地域活性化の確たる拠点とする方策などが確認できた。
3 つ目の研究は、若年層で利用率の高いSNS において喫茶店に関する投稿を見る際、SC に関する情報への注目度や印象を視線計測調査により検証した。分析の結果、SC が高い人は投稿の中でも感想に注目しており、他社の意見に関心がある一方、SC が低い人は写真に注目しており、イメージを重視する傾向にあることを明らかにした。
2020年度 研究テーマ
コロナ禍における大学生の消費行動研究
2020 年度の消費行動研究室の研究活動では、世界中に混乱と恐怖を与えたコロナ禍に おける大学生の消費行動をメインテーマとして、異なる 3 つの視点からサブテーマを設け、 研究を行った。各サブテーマの研究概要は以下のとおりである。
テーマ 1 では、緊急事態宣言下での外出自粛、学校休校、バイト先の休業をうけ余暇時 間が増えた大学生の SNS 利用時間の増加と、Instagram で流行した「#️ ダルゴナコーヒー」 「#おうち café」など料理投稿の増加に着目し、新しい購買行動モデル ULSSAS を用いて、 Instagram の優位性を検証した。分析の結果、大学生の調理行動と SNS の関係性、およ び Instagram の優位性を確認できた。
テーマ 2 では、新型コロナウイルスに対する不安感が、食料品の購買行動に及ぼす影響 を研究した。利己的・利他的消費に着目し「利己的買い溜め」「利他的買い溜め」「利己的 買い控え」「利他的買い控え」の 4 つの購買行動を取り上げた。コロナ禍の買い溜め・買 い控え行動の実態や不安感の構造を把握した後、回帰分析を用いてこれらの購買行動と不 安感の関係を分析した。分析の結果、大学生においては、学校への不安といった学生特有 のものも含めて不安感が「買い溜め・買い控え行動」に影響を及ぼすことを明らかにした。 テーマ 3 では、コロナ禍での食事形態選択に対して時間・リスク選好が及ぼす影響につ いて大学生を対象に研究を行った。食事準備時間と、準備をするにあたり感染するリスク の 2 軸を中心に食事形態を細分化し、時間・リスク選好がこれら食事形態選択に及ぼす影 響を分析した。回帰分析の結果、時間に対して我慢強い人はネット注文型デリバリーなど の食事準備時間が比較的長い食事形態を、リスクに対して比較的中立的な人はモバイル端 末を利用したテイクアウト等の食事形態をよく利用することが明らかになった。