「白河市まちラボ学生プロジェクト支援事業」「“醸す”魅力の発見と地域の活性化」における醸造科学科・学生の活動
2022年2月2日
背景
標題のプロジェクトは、福島県白河市(市長公室企画政策課)によって企画立案されたプロジェクトで「大学、短期大学、高等専門学校、専修学校等に籍を置く学生で構成されるゼミ、サークル、まちづくりに関心のあるグループなどを対象として、学生による新たな人流を創出すると共に、その活動を通して、地域課題の解決、市民との交流、白河市の魅力発掘、情報発信等を推進することを目指し、白河市を研究や活動のフィールドとして活用するそれら学生に対して、研究・活動費の一部を支援する」ことを目的としたものです。一方、本学・醸造科学科では、3年次の実習科目として「醸造科学特別実習」を開講しています。当該実習科目は、本学科の教育・研究理念に賛同して頂いている全国各地の醸造・食品関連企業などにおいて、(主として住込み形式で)約2週間にわたって実施される実務体験型の研究活動科目であり、学内での座学による学びで得た知識や技術を、実際の生産現場等で活用・実践して確実に習得すると共に、併せてコミュニケーション力の向上や組織内での協調性を養うことを目指して実施されています。白河市での本科目の実施は3年前から行われており、当初は「山口こうじ店」および「有賀醸造」(いずれも本学卒業生の実家)での醸造実習を主体とするものでしたが、令和3年度からは、新たに「大谷忠吉本店」においても、学生受入をして頂けることとなりました。
そこで、これを契機として当該科目の実施が、単なる「学生の学びの場」としてだけではなく、白河市の地域住民や市内の醸造等関連業界の方々と受講学生との交流などを通じて「白河地域の食文化特性やその魅力の発見」および「それらを活用した商品開発の提案」、さらには「地域が抱える問題解決のためのディスカッションの実施」などへと展開することの可能性を模索することにいたしまして、標題事業への応募、そして採択へと至りました。本事業には、①味噌や清酒分野での実習を希望し、②地域との交流を通じた白河の魅力発見とそれら情報の発信という本事業の趣旨を十分に理解している男子学生1名が参加しました(現地活動期間:令和3年12月12日~23日)。
活動内容
1.醸造実習
原料となる農作物の収穫、下処理から製造工程、さらに製品の容器への充填、商品へのラベル貼付、箱詰め、出荷に至る一連の作業を実体験により習得しました(写真1)。学内での座学や実習ではあまりイメージすることが出来なかった作業スケールの違いを実感できたことは、学生にとって貴重な体験でした。学生が最も衝撃を受けたことは「大部分の作業が、いわゆる“力仕事”であるにも関わらず、それに従事しているのは、比較的ご高齢の方々ばかりであること」でありました。白河市で“農業”や“醸造”が産業としてより良く発展していくためには、「これらの業種が、新しい価値を生み出すことの出来るとても魅力的な業種であるということ」、さらには「白河には、それを実現することの出来る可能性を秘めた企業がたくさんあるということ」を様々な形で発信し続けることが重要で、そのことで活力ある多くの若者を取り込む必要がある、と強く感じたようです。
写真1.蔵元および農家にて
麹造り、収穫作業、施設見学など
2.地域の方との交流活動
2-1高校生との交流活動
「白河市内には大学がなく、中高生が大学や大学(生)を身近に感じることの出来る機会が少ない」との事で、今回の事業実施に際して、市側からもとりわけ期待されていたのは、高校生たちとの交流でありました。本活動の拠点となったのは、“コミュニティ・カフェ EMANON”です。当カフェは、今から約6年前に古民家を改築することによってオープンしたカフェとのことで、その運営は、白河市にゆかりのある大学生などの若手が中心となって行われており、主に中高生などの若者世代の方々を対象として、交流の場や勉強の場を提供するという形で活用されていました。事業活動期間中は、醸造実習終了後に当所に立ち寄り、訪問者との交流を連日行ないました(写真2)。頻繁に訪問してくれる生徒がいたようで、お互いに、当日の出来事、趣味、あるいは地域の話題で盛り上がると共に、当該生徒さんからの「卒業後の進路に関する相談」に対しては、学生が自身の高校から大学にいたる経験談などを交えながら助言をしたり、あるいは一緒に考えたりすることが出来たとのことでした。「大学(生)に関心を持ち、大学への進学という夢を抱いている高校生」に対して、「何らかの形で力になれたのでは」との想いと共に、学生自身も自分を見つめ直すと良い機会になったようで、非常に貴重な体験・活動でした。
写真2.高校生との交流活動
(個人が特定できない様に写真の一部に加工を施してあります)
2-2その他の交流活動
蔵元の契約農家さん、酒販店さん、あるいは藍染屋さんなどの訪問も行なわれました(写真3)。訪問先では、作業や設備の説明を受けると共に、先方からの質問や先方が興味を抱かれている話題(例:「麹菌について」、「若者が好んで飲むお酒について」、「藍染と発酵」など)で議論を行う事ができ、互いにとって非常に有意義な時間でした。
酒販店にて
藍染屋さんにて
契約農家にて
3.メディア取材への対応
2社からの取材に学生が対応し、「白河市訪問の目的」、「醸造学を学ぶことになったキッカケ」および「大学での学びや将来の夢」などについてお話をしました。福島民友の掲載記事については、以下から講読可能です。
4.今後の課題
白河市での「醸造実習」の実施実績は浅いものの、本学としての実施ノウハウの蓄積があることや蔵元さんとの連携が良好十分にできていることもあって、活動は良好に行う事が出来ました。また、「各業種や地域の方々との交流活動」については、コロナ禍ということを考慮し、規模を縮小しての実施となりましたが、特に大きな問題もなく、それぞれの活動を通じて「蔵元さんにおける商品開発」や「地域が抱える問題」についてのディスカッションが出来ました。今後も「より内容の濃い交流活動」を引き続き継続していくためには、以下の様な配慮が重要であると考えられました。
①「本学学生による白河市訪問」の日時や目的を、事前に中高生や訪問先に告知
②学生による「大学紹介」、「学生生活紹介」、あるいは「市内での醸造実習紹介」などのプレゼンを実施
③交流会等参加者には、学生と議論したいこと、学生に質問したいことを事前に考えておいていただく
④プレゼン終了後に懇親会を実施して、さらなる意見交換を実施
5.最後に
醸造科学科と白河市との共同の取り組みに関する本記事をきっかけとして、様々な形で白河市に興味・関心を抱いていただくと同時に、各自の学びを活用して白河市で活動をしてみたい、との希望を持つ学生さんが現われてくれることを切に願いたいものです。
(文責:醸造科学科・徳田宏晴)