出産を望むカップルの期待を背に不妊治療を成功に導く胚培養士
山本 太陽 さん
東京農業大学 農学部畜産学科 平成20年3月卒業 / 東京農業大学大学院 農学研究科畜産学専攻 博士前期課程 平成22年3月修了 / 静岡レディースクリニック(生殖補助医療胚培養士)勤務
少子化対策を担う補助医療の専門職
世界初の体外受精児が英国で生まれてから37年。初婚平均年齢が男性30.7歳、女性29.3歳(2013年)と晩婚化が進む日本では、出産をめざすカップルの7組に1組が体外受精または人工授精の不妊治療に頼っているといわれます。
私は静岡レディースクリニックで生殖補助医療胚培養士として勤務し、赤ちゃんの誕生を切望する方たちの期待を背に、不妊治療を成功に導く仕事にあたっています。女性の卵巣から医師が取り出した卵子を体外で受精させ、その受精卵を医師が再び女性の体内に戻すまでの間、受精から卵の培養までを担うのが体外受精における胚培養士の役割です。
また人工授精は精液に遠心分離法などを用いて洗浄・濃縮した精子を女性の体内で受精させるもので、その精子の精製を胚培養士がおこないます。不妊治療はミクロの世界だけに、胚培養士には非常に繊細な技術と集中力が求められ、学術的な専門性と職人的な技術力がミックスしたとても難度の高い仕事だといえます。
来院者の喜びを自らの意欲に
女性は35歳を超えると受精能力が大きく低下します。体外受精目的で来院する患者さんの平均年齢は39歳。治療を受ける方々の切なる願いがわかるだけに、私の小さなミスが一つの尊い命を左右してしまわないようプレッシャーを感じる毎日です。それだけに妊娠が確認できたときの達成感はひとしおで、患者さんと歓喜を共有できるのが何より幸せな瞬間です。
現在、生殖補助医療胚培養士は全国で1,500人余りとニーズに足りておらず、現役の胚培養士に寄せられる期待は連日後を絶ちません。また不妊治療技術は世界的に日々進歩しているため、国内外の最新の学術情報のチェックも不可欠です。希望に応じて患者さんと面談する機会も多く、目まぐるしい毎日ですが「社会貢献をしている」という自負があるからこそ、誇りをもってこの仕事を続けられているのだと思います。
私の学生時代
学部3年次から大学院修了まで家畜繁殖学研究室に所属し、「母体の加齢がウシ卵子におよぼす影響について」という研究に取り組みました。研究がとにかく好きで毎日白衣を着て実験を続けるなかで、恩師の岩田先生と趣味が同じだったことから「海洋生物研究サークル」を発足。週に一度は先生と海や川に出かけたものです。
研究熱が高じて在学中に家畜人工受精士の資格も取得しました。ウシの受精機構が人間と似ていたことからヒトの不妊治療に興味をもったのが、この仕事をめざすきっかけになりました。私以降、研究室からは20数人の胚培養士が巣立ち、現在は農大胚培養士会の幹事として、いまも母校の研究室と密接につながっています。