東京農業大学

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持続可能な循環型社会の再構築を担う人材を育成

【2017年7月19日(金)】

今日は学科の必修科目『実用数物科学』のご紹介を致します。

講義情報

開講学年・学期・時限等:1年生 前期 木曜4限(14:40~16:10)

担当教員:本田尚正

講義内容

「流れの速さ」を見積もる ~自然災害から身を守るために~

洪水、津波、土石流、地すべりなどの水・土砂災害では、迫りくる「流れ」の速さを瞬時に見積もり、避難行動にいかに素早く繋げるかで生死が分かれることがあります。
東日本大震災の発端となった2011年3月の「東北地方太平洋沖地震」では、津波は本震発生後30分足らずで東北地方沿岸に達しました。震源分布の幅は太平洋沖に向かって東西約200kmと推定されています。津波の到達距離がこの幅の半分としても、巨大な海水の塊が時速約200kmという「新幹線並みのスピード」で駆け抜けました。
実は、津波の伝播速度Cは「C = √(gh)(h:海底までの水深、g:重力加速度=9.8m/秒2)」という簡単な式で概算できます。すると津波の時速は表-1のようになり、時速200kmに相当する水深は300m程度です。太平洋の平均水深は約4,000mなので、東日本大震災の津波の速度は実際には時速200km以上だった可能性は十分にあります。

この式の信頼性は1960年のチリ地震で確認できます。津波はチリ沖から約17,000km離れた東北地方沿岸まで約24時間で到達しました。これはジェット機より少し遅い時速約700kmに相当し、表-1のh = 4,000mの場合とほぼ一致します。さらに、津波は水深の大きい外洋を高速で伝播し、浅い海岸に達すると減速します。その結果、図-1のとおり、波長の減少と振幅の増大が生じ、強大な波となって沿岸域を襲います。

図-1 津波の波長の減少と振幅の増大

転じて山地に眼を向けると近年、豪雨に伴って全国各地で頻発する土石流は、流れの先端に巨石や巨木を含み、強大な破壊力をもって時速30~40km以上で流下します。これは一般道路における車の制限速度並みであり、一見遅く感じますが、「時速40km=秒速11.11m」は100m競走9秒00の記録です。現在、この土石流のスピードに勝てる人類はいません。このことからも、土石流は発生直後の避難はほとんど期待できず、より早い段階での対応がいかに重要であるかがよくわかります。

津波の伝播速度式はラプラス方程式*に仮定と境界条件を与えて理論的に導出でき、土石流の先端速度は画像解析によって推定できます。科学的に算出される「流れの速さ」を「新幹線並みのスピード」や「100m競走の世界記録」といった、生活感や臨場感あふれる情報に置き換えて社会に広く発信し、自然災害から身を守るための自発的な行動を促すことが今、強く求められています。

写真-1 土石流の氾濫の一例

* ラプラス方程式:フランス人ピエール・シモン・ラプラス(1749-1827)によって発見された2階線形の楕円型偏微分方程式(大学数学で学ぶレベル)。境界条件が与えられた時に「その内部を滑らかに補間するような関数(調和関数)」を求める方程式であり、時間によって変化しない定常状態でのさまざまな物理量(電界、磁界、温度分布、波の運動など)の計算に幅広く用いられる。

☆同講義の情報はこれからも更新してきますので、お楽しみに!!

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