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驚異の微生物パワーで豊かな暮らしを創造!

研究室トピックス|微生物工学研究室

研究室活動あれこれ

4年次に卒論研究を行うための研究室への配属は、3年次前期に決まります。醸造およびその関連分野のどの部分に重点をおいて卒業研究を行うかについて各自が真剣に考え、研究室訪問を重ねた上で意志表示をし、配属が決定されるのです。研究の本格的始動は4年生になってからではありますが、3年次の中後期には「引継実験」が行われます。

これは当該年度で卒業する先輩達からの実験技術や重要資料・試料の伝達をしてもらうものです。また、卒論のテーマに関わらず使用する各種実験機器類の操作法を学ぶための「練習実験」も実施されます。講義などの座学と共に、これらの実験体験を通して、卒論で取り組むテーマについての想いや考えを膨らませていくのです。

4年生になると、1日の大半を「卒論研究のための実験」と「進路決定に関する活動(就活や進学のための受験勉強)」に費やします。「研究のための実験」は「授業での実験(←これは、結果が既知の題材を取扱い、実験手法や科学の考え方を身につけるもの)」とは異なり、未知のことを扱う挑戦的なものです。

苦労も少なからずありますが、その分、新しいことが分かった時の感動は何事にも代え難いものです。研究室の年間行事には、研究関連のものとして「研究検討会(実験結果を考察し、今後の方針を決定するもの)」、「論文講読会(卒業研究に関連する論文を題材として議論し、視野を広げるためのもの)」、さらには「研究発表会(発表会資料の作成や発表練習)や学会参加」などがあります。

また、娯楽的な行事として「スポーツ大会(全学的大会、研究室対抗戦的大会など様々)」、「各種懇親会」、「研究室旅行(含:工場見学会など)」などもあり、気分転換や仲間との絆を深める上でとても重要な行事として位置付けられています。

大学生ならではのこれら一連の研究室活動を通じて、勉学面だけでなく人間的にも大きく成長した学生達が、社会人として毎年多数巣立っていきます!

醸造や発酵における「工学」って?

-小さな生きものを利用して大きな夢の実現を-

醸造や発酵など、いわゆる応用微生物学分野を志す方の中には、「工学って、計算や理屈が難しそう・・・」であるとか、「数学は苦手なので・・・」などといった印象をお持ちの方も少なくないようです。確かに、時には多少込み入った計算や現象解析も必要です。ですが、大半のことは、高校までに学んだ知識で十分に対応することが出来ます。しかも、計算自体はPCや関数電卓などを利用すればとても簡単です。重要なのは、「直面している生物化学や微生物学などの現象に興味を持つこと、そしてその現象から得られたデータを、数式のどの項に代入すべきかを理解しようとすること」なのです。数学は現象を理解するための単なる道具に過ぎないのです。

例えば、醸造や発酵製品の価格を決定するには、「用いた原料に対し、どれだけの時間を要し、製品がどれだけ出来たか」という定量的な捉え方(つまり収率や生産効率の考え方です)がとても重要ですよね。単に「製品が出来た」という定性的は捉え方だけではダメですよね。この様な場面では少々の計算が必要となります。

また、「増殖速度が既知の微生物であれば、その微生物の菌体を一定量得るために必要な培養時間」であるとか、さらには「雑菌が少々混入している試料があるとして、この雑菌の熱死滅速度が分かれば、安全な状態にするために必要な殺菌条件」なども簡単な計算で求めることが出来るのです。

当研究では、この様な観点で(1)醸造・発酵あるいは環境分野で利用可能な新規微生物の検索、(2)微生物の菌学的性質の解明やその改質、(3)微生物の培養条件検討、(4)微生物による物質生産条件の検討、(5)微生物の培養や物質生産に用いるバイオリアクター(発酵槽)の開発、(6)農林水産系廃棄物の微生物処理などについて幅広く研究しています。「微生物工学」は、小さな生きもの(=微生物)に「最適な活躍の場」を提供することで、大きな夢(=人類の豊かな生活)の実現を目指しています!

清酒、焼酎、泡盛、ビールなど酒類の新規製造用酵母の分離、育種

清酒、焼酎、泡盛、ビール、ワインなど新規酒類製造用酵母の分離、育種、市販酒の分析
人に個性があるのと同じように、アルコール発酵能を有するSaccharomyces cerevisiaeは株ごとに異なる個性を示します。例えば、清酒酵母は清酒醪で高いアルコール発酵能を示し、高品質の清酒を造りだすことができるという個性を持っています。また、清酒酵母という個性をもつ一群の酵母の中でも、香り高い風味、コクのある風味、爽やかな風味など、風味の形成に重要な化合物の生成量が異なるという個性を示す株が存在します。そのため、清酒の風味は、水、米、麹菌、製造設備、造り方など様々な要因で変化するのですが、製造に使用する酵母によっても大きく変化します。
清酒は、古くは“蔵付き酵母”と呼ばれる酒蔵に住み着いた、つまり酒蔵毎に異なる酵母で造られていました。その頃の清酒は、蔵毎に風味が大きく異なり、多種多様であったと予想されます。しかし、安定した生産が難しい酵母や優れた風味の清酒をつくれない酵母に棲み着かれてしまっていた酒蔵もあったと予想されます。そこで、高品質な清酒を安定して造ることができる酵母(清酒酵母)が日本醸造協会に集められました。現在は、日本で作られる清酒の多くが日本醸造協会で頒布されている“きょうかい酵母”を使用して造られています。
微生物工学研究室では、近年の「限られた種類の酵母での高品質で安定した酒造」という状況を、「多様な酵母で高品質で安定した酒造」にすることを目標に、新たな清酒製造用酵母の分離を自然界に求め、特に花からの酵母分離を試みています。しかし、自然界では酵母だけではなく様々な微生物が生存競争を繰り広げており、清酒製造に適する酵母を容易に分離することができません。そこで、より効率的に清酒製造用酵母の分離が可能な手法の開発を続けています。これまでに、本研究を続けることで花からの清酒製造酵母の取得に成功しており、“農大花酵母”として約40社の酒蔵で使用されています。清酒だけではなく、焼酎、ビール、ワイン、シードルなどの製造にも利用され、毎年約100万リットルのお酒が生産され販売されています。これら“農大花酵母”とそれをベースとした育種酵母は、各種酒類製造や地域特産品の開発などでの活躍が期待されます。
現在広く使用されている清酒酵母と同等の発酵能を示すけれども、異なる風味を造り出す新規酒類製造用酵母(農大花酵母)は、研究題材としても有望です。例えば、香気成分の分析、オフフレーバーの原因遺伝子、ゲノム解析による進化的な位置づけ、酵母育種の親株としての利用などなど。さらには、農大花酵母だけではなく、数多くの市販清酒の成分分析を実施し、人の官能との相関を調べる研究なども実施しています。

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これまでの主な成果

麹菌が生産する抗菌物質Yeastcidin

清酒製造用種麹菌から分離したAspergillus oryzae No.G株は、我々がYeastcidinと呼ぶ抗菌物質を生産します。このYeastcidinは、ビール酵母やワイン酵母などのS. cerevisiaeだけではなく試験したほぼすべての酵母の生育を阻止しますが、清酒酵母は生育を阻害されないという興味深い性質を示します。Yeastcidinおよびその酵母への作用については不分明なことが多く、現在、清酒酵母のYeastcidin耐性機構を明らかにすることを目的に研究を進めています。

きのこで発酵させた発酵食品

我が国の発酵食品は清酒、味噌、醤油など多くのものに麹菌Aspergillus oryzaeが利用されています。これは麹菌が米などのデンプンをブドウ糖に分解したり、大豆などのタンパク質をアミノ酸に分解したりする働きを持っているからです。この麹菌は糸状性真菌、いわゆるカビの仲間にあたり、安全な食べられるカビを使って発酵食品を生産していると言うことができます。

一方、きのこ類も実はカビの仲間にあたり、麹菌に比べると弱いもののデンプンやタンパク質を分解する力も持っています。きのこ類は抗がん作用などの健康に良い働きを持つものが知られているため、これらを用いて発酵食品を製造すれば、健康に良い発酵食品を製造できる可能性が考えられます。そこで、食用・薬用きのこの中から食塩の存在下でもタンパク質を分化できるきのこ類を選抜し、味噌の製造を試みました。その結果、トキイロヒラタケやツクツクホウシタケなどにより発酵させたものは1ヶ月の熟成によりペースト状となり、味噌様の味と食感を持つ食品を得ることができました。うま味成分であるグルタミン酸の濃度も市販味噌よりも高い値が示され、強いうまみを持つ味噌の製造が可能であることが示されました。同様に醤油や味醂(みりん)などもきのこ類を用いて発酵させることに成功しています。このようにきのこ類は様々な発酵食品の製造に利用できることが分かったので,今後更に様々な発酵食品の製造に挑戦するとともに、健康増進に役立つ様々な機能性について明らかにしていくことを計画しています。

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写真左:きのこで発酵させた味噌

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写真右:きのこで発酵させた味醂

きのこ産業の課題解決に取り組む 〜エノキタケの子実体発生不良因子の解明と対策法の確立〜

きのこ類もカビ仲間であり、微生物の一種ですが、細菌や酵母と事なり複雑な組織を形成する特徴があります。スーパーなどで売られていて皆さんが普段目にする傘があって柄があるいわゆる「きのこ型」をしている部分は子実体と言い、きのこにとっては植物の花や果実にあたる部分です。食用きのこを栽培する際には,栽培ボトルに入れたおがくずなどを主成分とする培地で菌糸と呼ばれるカビ上の組織を培養します。この菌糸は植物にとっての葉や茎に当たる組織で,培地を分解して栄養を蓄えます。菌糸が十分栄養を蓄えるのを待ったら、培養室の温度を下げることできのこに秋が来たと錯覚させて花や果実にあたる子実体を形成させるのが一般的なきのこ栽培の技術です。
ところが、きのこ栽培をしていると、菌糸が十分栄養を蓄えているにもかかわらず、子実体を形成しなくなるトラブルが一定の割合で発生することがあります。この現象は「子実体発生不良」と呼ばれており、栽培ボトルに菌糸を植えるために使った種菌に何らかの問題が生じることによって発生することが分かっていますが、この原因は未だに解明されておらず、遺伝子の突然変異、ウィルスや細菌による感染症など様々な可能性が考えられています。エノキタケ栽培など栽培現場では1本の種菌のボトルから4万本ほどの栽培ボトルが植えられているので,一度この子実体発生不良が起きると、4万パック分=販売価格で数百万円分のエノキタケの販売機会の喪失につながるため,非常に警戒されています。そこで当研究室ではこのきのこ産業の抱えている大きな課題を解決するため、エノキタケの子実体発生不良を引き起こす因子の解明と、対策法の確立を目指して多角的な研究に取り組んでいます。

ビル屋上での醸造ブドウ栽培とワイン醸造

近年,都市部ではコンクリートやアスファルトで地表面が覆われたことにより、気温が上昇するヒートアイランド現象が深刻化しています。このヒートアイランド現象を緩和する手段の一つに屋上緑化があり、現在様々な種類の植物を屋上に植栽することが試みられています。ビルの屋上には建築上の荷重制限あるため、草本類や低木に利用が限られており、土壌の量も限られるため真夏の日中などは乾燥しやすく,屋上緑化に用いる植物にはある程度の耐乾性が求められます。醸造用ブドウは原産地が中東〜地中海地方〜東ヨーロッパの半乾燥地帯であるため、果樹の中では比較的耐乾性が高く,つる性の中低木なので屋上緑化に適している可能性が考えられ,実際に目黒区の大橋ジャンクションの屋上などで栽培行われている例などもあります。しかし、醸造用ブドウには多種多様な品種があり、各栽培地の気候で栽培しやすい品種が選抜・栽培されてきましたが、東京のビルの屋上の気候は日本のどのワイン産地の気候とも大きく異なることが予想さます。
東京のビルの屋上でブドウ栽培が可能となれば、ヒートアイランド現象改善につながるだけでなく,屋上庭園や屋上公園など市民の憩いの場としても展開できる可能性が考えられます。そこで当研究室では将来的に都心部のビルの屋上を利用して東京産ワインを醸造するプロジェクトを広く実施することを目標として,まず東京のビルの屋上で様々な品種の醸造用ブドウの栽培を行い,さらに得られたブドウからワインを試醸して品質評価を行うことで,東京のビルで栽培しやすく優れた酒質のワインを醸造できる品種の選抜を試みています。

「基礎化学実験」 ~分析化学の基礎を体感して修得~

 微生物や酵素を利用する発酵での“ものづくり”では、微生物・酵素反応の様相、生成物の性質や機能解析などで、分析化学の手法が大きな力になります。1年次・前期の「基礎化学実験」では、クロマトグラフィー、容量分析、重量分析、あるいは比色分析などの基礎的な考え方や操作法を学ぶと共に、データ整理や解析法、さらに報告書の書き方などを修得します。入学後最初の実験のためか、初めは生き生きとした雰囲気の中にも若干の緊張感や互いの遠慮も感じられますが、実験を通じてコミュニケーションが円滑になるにしたがって、作業の正確性や効率もアップし、学期終盤には皆さん見違えるような成長を見せてくれます。

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