東京農業大学

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発酵食品からバイオの世界を切り拓く

研究室トピックス|発酵食品化学研究室

発酵食品による地域活性化

醸造科学科 発酵食品化学研究室では、各種熟成チーズ、食酢、くさや・ふなずしなどの水産発酵食品を始めとする様々な発酵食品製造に不可欠な微生物や発酵食品の特徴となる成分についての基礎と応用について幅広く研究しています。特に、「熟成チーズの微生物と成分生成との関連」、「チーズ分離乳酸菌の発酵特性と成分生成機構」、「食酢醸造用酢酸菌の酢酸発酵メカニズムの解明」、「フードミクスによる各種発酵食品の成分評価」、「伝統水産発酵食品くさや・ふなずしに関する研究」、「くさや・くさや汁中の抗生物質生産放線菌に関する研究」、「発酵食品による地域活性化」など多岐に渡ります。得られた研究成果を基に、伝統的醸造技術を科学的に解明し、科学的知見を付加価値とすることで、より良い発酵技術の開発や伝統発酵食品の科学的解明に繋げて発酵食品の未来を開くことを目指しています。

熟成チーズの微生物と成分生成との関連

熟成チーズなどの各種発酵食品は、熟成期間中にスターター微生物以外の微生物が増殖することで複雑な味や香りを生成していると言われています。私たちは熟成チーズ中からの微生物の分離、成分分析を行い、熟成チーズ製造に関与している微生物と成分生成との関連について研究しています。また、発酵食品中に存在する微生物叢を調べ、成分との相関を統計解析などの様々な手法を用いることで関連性を見いだす研究も行っています。さらに、微生物培養物をガスクロマトグラフィー質量分析計や高速液体クロマトグラフィーなどの各種先端分析機器を用いた化合物の一斉分析を行うことで、発酵食品の品質劣化や熟成中の成分変化などの解析も行っています。また、近年の当研究室の研究で製法・産地・原料の全く異なる発酵食品から微生物を分離したところ、共通して分離される微生物が存在しており、それらの多くが海洋性微生物であることが分かってきました。それら微生物の共通性に着目し、発酵中での微生物の作用と成分生成についても明らかにしていく研究も展開しています。

これまでの主な成果

チーズ分離乳酸菌の発酵特性と成分生成機構の解明

発酵食品製造において微生物の発酵作用は必要不可欠ですが、実際の発酵食品製造ではそれら微生物の代謝に大きく依存しており、微生物の代謝は発酵をコントロールする上で極めて重要です。それらの発酵作用を理解する上では発酵に重要な個々の微生物のもつ代謝能, とくに細胞内の代謝を詳細に調べる必要があります。
私たちは、各種熟成チーズから分離された乳酸菌の細胞内代謝について遺伝子工学や分子生物学的手法を用いて研究しています。当研究室ではこれまでに各種チーズ(ウォッシュチーズ, 白カビチーズ)から多くの好塩性・好アルカリ性などの特徴的をもつ乳酸菌を複数分離しています。これら微生物について特に有機酸資化能や糖代謝における細胞内代謝メカニズムについて研究を行っています。
また、それらチーズから分離された乳酸菌を殺菌したチーズに接種して模擬的熟成を行う事で、個々の乳酸菌の成分生成メカニズムについての研究も展開しています。

これまでの主な成果

食酢醸造用酢酸菌の酢酸発酵メカニズムの解明

食酢醸造において重要な酢酸菌は酢酸発酵を行うため、原料成分であるアルコールや自身が生産する酢酸など、絶えず過酷なストレス環境に曝されています。しかしながら、発酵中の酢酸菌はその様な環境の中でも生育して発酵を続ける能力を有しています。このような微生物の能力を詳細に調べることは、食酢醸造における酢酸菌の発酵能の強化、発酵時間の短縮、発酵のコントロールに繋がると期待されます。私たちは各種酢酸菌を対象に「様々なストレス環境下でどのように耐性を持つのか」、「細胞の中ではどのような代謝が行われているのか」について研究を行っています。
また、一部の酢酸菌は食酢醸造だけではなく「バクテリアセルロース」と呼ばれる物質を生産します。これは、食酢醸造においては「酢こんにゃく」として、食品としては「ナタデココ」として知られています。私たちはこのような酢酸菌の生産する「バクテリアセルロース」生成機構の解明に向けて、遺伝子レベルでも解析を行っています。

これまでの主な成果

フードミクスによる各種発酵食品の成分評価

フードミクスは食品成分を網羅的に一斉分析することで食品間、加工場の違い、地域の違い、原料の違いなどを特定付ける成分を解析できる新しい手法です。それにより、膨大なデータを要約し、簡便・客観的に食品の特徴を把握したり、成分プロファイルから製品の品質を予測したり、品質評価の指標となるマーカー物質の特定する事が可能になります。私たちは発酵食品にこの「フードミクス」を適応して、熟成チーズやくさや・ふなずしなどの水産発酵食品を対象に各種統計解析を組み合わせることで成分の網羅的解析を行っています。これにより味・風味形成・製造工程など、発酵食品製造における実用的な品質設計への応用を目指しています。

これまでの主な成果

伝統水産発酵食品「くさや」に関する研究

「くさや」は伊豆諸島で古くから製造されている伝統水産発酵食品であり、100年以上使い回された「くさや汁」という漬け汁に原料魚(ムロアジ・トビウオ)を浸漬・発酵・乾燥させることでつくられます。「くさや」製造で重要なのは「くさや汁(くさや液)」です。江戸時代では塩年貢(塩を年貢として納める)のため塩を献上していたため、塩の節約のために同じ塩水を使い回して使用されてきたものが「くさや汁」となったと言われています。この「くさや汁」には原料魚、海水由来などの様々な微生物が生息しているため、「くさや汁」に原料を浸漬すると、これら微生物によって強烈な発酵が起こります。これにより、あの独特なにおいが付与されると共に、原料魚のタンパク質が微生物により分解されてアミノ酸に変化することにより、うま味が向上します。しかし、「くさや」の製法と「くさや汁」の成分や役割についてはほとんどわかっていません。
私たちはくさやの製造業者の方と共同で、「くさや」と「くさや汁」の微生物、発酵プロセス、味やにおい成分の解析を行っているとともに、製造年違いや、各発酵過程、加工場の違いによる差異などについても明らかにすることで、「くさや」の科学的解明に取り組んでいます。

これまでの主な成果

伝統水産発酵食品「ふなずし」に関する研究

近江伝統水産発酵食品「ふなずし」は平安時代から造られていると言われており、塩漬けした原料フナを米飯と共に樽に漬け込んで嫌気発酵させるという独特な製造法で造られます。そのため、原料魚と一緒につけ込む米飯が乳酸菌などの微生物による発酵で粥状になる事が特徴です。また、その発酵は非常に強力で、発泡により100kg以上の重し(重石)が樽から落ちるほどです。しかし、その製造に関わる微生物と生産される成分については全く不明のままです。私たちは「加工場が違うと微生物が違うの?成分も違うの?」、「漬け込み中に成分はどれくらい変化するの?」、「樽に住み着いている乳酸菌はいるの?」、「なんで米飯が粥状になるの?」という様々な疑問点を明らかにするために「ふなずし」からの微生物分離とフードミクスにより発酵現象と製法の科学的解明に取り組んでいます。

くさや・くさや汁中の抗生物質と抗生物質生産放線菌に関する研究

「くさや汁」にはかねてから微生物由来の天然の抗生物質が含まれているといわれています。そのため、先人達は風邪を引いた時や傷を負った時に薬として「くさや汁」を使用していたとも言われています。また、「くさや」はこの微生物由来の抗生物質が含まれた「くさや汁」につけ込まれるため、塩干物と比較して保存性が高くカビや酵母などの真菌も生育しづらいと言われています。私たちは、「くさや」、「くさや汁」から抗生物質生産する微生物、特に複数の放線菌の分離に成功しており、どのような放線菌なのか?「くさや汁」という環境でどのように抗生物質を生産しているのか?どんな抗生物質を生産しているのか?についての解明を試みています。それにより、抗生物質生産放線菌の特徴や生産する物質を明らかにし、医薬・産業利用への応用展開について研究することで、発酵食品にこれまでにない新しい付加価値を付与することを目指しています。
また、「くさや汁」は高い食塩濃度であるため、食塩が抗生物質を生産に及ぼす影響や放線菌の抗生物質生産メカニズムについて遺伝子・タンパク質レベルで解明し、発酵食品由来微生物の生産する抗生物質を食品産業以外の分野に応用するための研究も行っています。

これまでの主な成果

発酵食品による地域活性化

日本は独特の気候と風土があることから様々な発酵食品が存在しています。それら発酵食品は独自の伝統的製法で作られているため、魅力的な発酵食品が多く存在しています。一方で、伝統発酵食品製造業は後継者不足などにより著しく減少しており、伝統技術の継承・保存なども課題である。私たちは、伝統的発酵食品が多く存在する八丈島の発酵食品(くさや, 植物)などから分離した微生物を発酵食品製造に応用して、原料・微生物・製品まで全てその土地由来の物で発酵食品を製造することで、地域活性化をできないかと考えて研究を進めています。

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