東京農業大学

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人の生活の豊かさと環境との調和を化学・生物学的視点から実現する

研究紹介|植物生産化学研究室

鉄欠乏環境で光合成を持続するオオムギ葉の適応システムを紐解く

植物体内では、鉄の大部分が光合成の電子伝達体として働くため、鉄が不足すると光ストレスを起こしやすくなる。私たちは、この鉄欠乏性の光ストレス耐性に関与する因子として、集光性アンテナ「Lhcb1」蛋白質の1種を同定した。このLhcb1を蓄積できないオオムギ変異体では鉄欠乏で深刻な細胞死が見られる(1)。詳細に調べると、鉄欠乏が深刻な場合に、オオムギはLhcb1蛋白質を強くリン酸化することで、集光性アンテナではなく、むしろ光から身を守るバリアのように利用することが分かった(2)。当研究室ではこのような光合成システムの鉄欠乏適応だけでなく、複数の鉄欠乏適応のメカニズムに着目している。現在、世界各地に由来するオオムギ品種を比較解析し、品種間で鉄欠乏耐性の差を生む複数の要因の解明を試みている(3)。将来、少ない鉄でも生産性を維持できる新しい植物の開発に繋がるものと期待している。

[論文・学会発表]
・ Fe deficiency induces phosphorylation and translocation of Lhcb1 in barley thylakoid membranes, Saito et al., FEBS Lett, 588, 2042-2048 (2014)
・ Elongation of barley roots in high pH nutrient solution is supported by both cell proliferation and differentiation in the root apex, Higuchi et al., Plant, Cell & Environment,40, 1609–1617 (2017)
・ Photosynthetic iron-use efficiency provides a means for screening elite barley genotypes that adapt to iron deficiency with unknown mechanism, Saito et al., XVIII International Plant Nutrition Colloquium (2017)
・ Molecular mechanism of the constitutive phosphorylation of the major light-harvesting antenna complex protein in iron-deficient barley, Saito et al., 18th International Symposium on Iron Nutrition and Interaction in Plants (2016)

カルシウム欠乏症を起こしにくくする遺伝子を探索する

作物をきちんと栽培することは難しい。きちんと肥料を与えても、植物の体の中で成分の分配のバランスが崩れると、生理障害が発生する。その最たる例が、トマトの尻腐れ症である(1)。尻腐れ症は、一般的に果実へのカルシウムの分配が低下すると発生しやすくなると考えられている。カルシウムは果実よりも葉に分配されやすいため、単に肥料を増やしただけでは、尻腐れ症の発生を抑えられるとは限らない。
私たちは、尻腐れ症をはじめとするカルシウム欠乏症を起こしにくい作物の育種に貢献するため、多数の大玉トマト品種、実験用トマト品種であるマイクロトム(2)、モデル植物シロイヌナズナを用いた遺伝学解析を行っている。カルシウム欠乏症を発生しやすい品種・系統と、発生しづらい品種・系統の間でのゲノム配列の違いを調べることで、カルシウム欠乏症を起こしにくくする遺伝子を見つけ出し、有用な作物品種の作出に繋げたい。

tomato3.png

(1)トマトの尻腐れ症

赤矢印の部分が黒く壊死していることがわかる。カルシウムの欠乏が原因と考えられている。

tomato4.jpg

(2)マイクロトム

とても小さいトマト。成長しても大きさは20cm程度。鉢に刺さっている棒は割り箸。省スペースで多く栽培可能で、遺伝学解析に向く。

カルシウム欠乏症のメカニズムのほかにも、果実のミネラルに特徴をもつ品種や系統の探索も行なっています。
また、モデル植物のシロイヌナズナも使用しています。

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