研究紹介|土壌肥料学研究室
化学的なアプローチによる「土づくり」の解明
北米では近年、Soil Healthという言葉が多用されている。Soil Healthは、従来から使用されているSoil Qualityとほぼ同意義語であるが、土壌をより「生物」として捉えている点で異なる。なぜなら、Health(健康)とは生き物だけが持ちうる概念だからである。日本には従来から「土づくり」という言葉がある。「土づくり」は、農作物の生育をより良くし、農地を持続的に使うことを目指した営農技術、またはそれに付随する概念を示す。土づくりではSoil(土壌)を生物と考えてはいない。土づくりにおいて、土壌とは「環境」である。環境とは生物が存在して初めて認識され、その存在が成立する。言い換えれば、生物が存在するために必要な環境の一つが土壌であると言える。我々は土壌を「生物」ではなく、「環境」として捉えており、土づくりを非常に重要な概念として認識している。しかしながら、土づくりは科学的に実証されていること以上に、実証されていない事象が多く、非常にグレーな世界と考える。我々は「土づくり」を化学的に実証し、科学的な「土づくり」を発信することを目的に研究を進めている。
土壌酸性改良による土壌伝染性フザリウム病の防除技術の開発
全国の野菜産地では植物病原菌による連作障害が多発し、その防除対策が求められている。中でも、フザリウム病菌による土壌病害はその広範な宿主範囲から多大な被害をもたらしており、産地存続を脅かす病害である。一般的に土壌の酸性改良を行うことでフザリウム病の発病は抑制されることが知られているが、そのメカニズムは未だ不鮮明な点が多い。我々は、土壌酸性改良によるフザリウム病の発病抑制メカニズムの解明を土壌肥料学的観点から行うと供に、国内の未利用資源である転炉スラグを用いて、より効果的で持続性の高い総合的な防除技術の開発を行っている。
[論文]
・転炉スラグによる土壌病害の被害軽減技術の開発と実用化 セルリー萎黄病の被害軽減技術の開発と実証 大島宏行 植物防疫 Vol.70 No.4 Page.230-236
[学会発表]
・転炉スラグの多量施用が作物への微量元素吸収におよぼす影響 大島宏行ら 日本土壌肥料学会講演要旨集 Vol.60 Page.136