東京農業大学

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動物の特性と生命現象の探求
※2018年4月 畜産学科より名称変更

妊娠における“炎症”は善か?悪か? ~妊娠の免疫機構を理解する~

ヒトやウシなどでは、人工授精や受精卵移植などの技術が大幅に向上したにも関わらず、半分以上の確率で妊娠することが難しいのが現状です。なぜこんなに難しいのでしょうか?妊娠率が低い理由として卵子や精子の問題が考えられます。他にも、卵管が機能しているのか?

受精卵が母体によって認識されて着床できているのか?胎盤形成は正常に行われているのか?など、妊娠成立のためには数多くのハードルを越える必要があり、どこかのポイントで適切な機能が破綻してしまうと、妊娠不成立や流産などに繋がると考えられます。

妊娠成立には免疫機構が関与する?

“妊娠”は非常に不思議な現象です。母親と父親の遺伝子からなる胎児は母親にとって「半異物」にも関わらず、母親は胎児を受容します。妊娠が成立するためにはこの機構が重要ですが、どのようにして制御されているのかについては謎が多いままです。半異物である胎仔を排除しないようにするシステムのことを「妊娠免疫寛容」と言います。

ウシでは、受精後の胚から特異的に産生されるインターフェロン(IFNT;妊娠認識因子)が必須であり、着床が正常に進むよう卵巣や子宮環境を整備しています。ヒトやマウスでは、母体の免疫細胞が異物(胎仔)を認識し、過剰な炎症の抑制および胎仔の免疫寛容(許容)を誘導することで妊娠成立が起きることが分かりつつあります。

このような事実から、1.IFNTは妊娠免疫寛容を引き起こす力を持っているのではないか、2.IFNTに対する妊娠認識の不備が起きてしまうと、免疫細胞・子宮や卵巣などの妊娠担当細胞が炎症を起こしてしまい、胚死滅に至るのではないかと考え、その詳細なメカニズムを検証しています。実際に、IFNTが免疫細胞や卵巣で作用することや、免疫細胞における過剰な炎症を抑制することを明らかにしています。​

ヒトの妊娠高血圧症候群には自然炎症が関与する?

妊娠高血圧症候群は、全妊娠の5~8%に発症する妊娠特異的な症候群であり、妊産婦死亡の主要な原因の一つです。妊娠高血圧症候群は、全身性または胎盤において炎症反応が亢進状態になることが病因の一端として考えられていますが、詳細は不明です。

そもそも、妊娠高血圧症候群は“病原菌や感染”が関与しない病気なのに、なぜ炎症が起きるのでしょうか?私たちは、胎盤などで“無菌性炎症”が過剰に惹起されることで妊娠高血圧症候群が発症するのではないかと仮説を立て、検証を進めています。

現在、このような妊娠疾患を引き起こす“病因X”を見つけ、どのような悪影響を引き起こすのかを研究することで、妊娠疾患の発症機序を解明しようと試みています。このような研究が進むことで、どのような薬剤を処置すると妊娠疾患が改善できるのか、ということも分かってくるかもしれません。


動物科学科 動物生殖学研究室
准教授 白砂 孔明

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