東京農業大学

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動物の特性と生命現象の探求

動物のもつ力の行動学的究明 ~ 人と動物の関係学の挑戦 ~

動物たちは実に不思議な能力を持っています。これは私達が普遍的に有する感情をいとも簡単に揺さぶる能力です。直接的なふれあい、あるいは写真など間接的に接することでも、人は楽しみを得、また喜びが高められ、あるいは悲しみが緩和されるという、豊かな心の変化が生まれます。これは、“癒やし”と呼称される人の精神への作用であると捉えることもでき、様々な健康効果をももたらしてくれます。まさにAnimal Assisted Therapy(いわゆるアニマルセラピー)における治療的効果の根幹であるといえるでしょう。動物による人の健康効果のなかでも精神面への効果は、物理的な療法には存在しない特徴的かつ特有の現象であるといえます。
しかし、こうした動物との関係から得られる健康効果を考えた時、効果発現のメカニズム、すなわち動物のなにが人にどのように影響を及ぼしその効果がもたらされるのか、現時点で十分に説明できていません。とりわけ目にみえない人の精神に関わる効果は、リアルタイムに変化する心の動きを捉えること、そしてなにより明確に数値として示すことが極めて困難です。このことは研究領域において常に議論される問題、そして打破しなければならない大きな壁でもあります。私たちは、特に動物とのコミュニケーション場面に沸き起こる癒やしの感情に着目し、行動生理学的、行動神経学的手法をもって科学的にその効果メカニズムを示すことを研究の大きな目的としています。

心の定量化 − 脳機能測定によるアプローチ

脳は感覚入力からの情報を統合し行動を制御します。行動によって生物は環境適応を図りますが、人の場合、単なる外部環境への応答とは異なり、複雑な社会に対する高次元の適応が求められます。これらを担う高次脳機能、なかでも前頭前野の脳領域は人の精神活動、特に共感やコミュニケーションと深い関連があります。
私たちは光イメージング脳機能測定装置を用いて動物とのふれあい場面における前頭前野活動の測定を行ってきました。これまでの結果から、動物(犬猫)とのふれあいが前頭前野機能活動を高めることを示し、特に猫は犬に比べて高い賦活を示すことを発見しました。今後はさらに発展させ、動物の刺激特性(触る・見る等)の受容(感覚受容)、脳による統合(脳機能活動)および生理変化(種々の生理活性物質)、続く行動発現といった一連の経路において、それぞれ人と動物双方の測定と分析を行い、動物による多様な刺激がもたらす人の心身の健康効果発現メカニズムに関する論理を打ち出していきたいと考えています。

猫と人との関係に関する研究

猫のもつ癒やしの影響力は、昨今のブーム(実際にはブームではないのですが)に代表されるように社会的にも絶大といえるでしょう。そこで私たちは、猫と人との関係にも焦点を当てて研究を進めています。たとえば、猫の鳴音であるmeow(ミャオ)は、猫同士というよりは人に対して向けられる声です。このmeowの詳細な鳴音分析、そして発声した猫の行動および人との関連性を詳細に分析し、いわゆるネコ語を解明したいと考えています。また人と猫とのコミュニケーションにおいて猫のもつ種々の刺激に対し人の脳機能活動とその認識を捉え、また猫の心理状況の洞察や行動変化なども分析し、猫と人との社会的絆について考究していきます。

馬と人との関係に関する研究

馬は“乗ること”ができる極めて特異的な動物です。この馬の持つ刺激特性の一つが騎乗による“揺れ”です。これまで私たちは、この馬の揺れが人の歩行における腰部の動きと類似し、歩行と同じ刺激を騎乗者に与えることを明らかにしてきました。歩行をはじめ適度な運動は脳に影響を及ぼし、記憶、注意、学習を高めると考えられています。この直接的に人に与えられる馬の揺れ刺激の特徴を同定し、身体的・精神的な効果因子としての証左を求めていきたいと考えています。

動物科学科 動物行動学研究室
准教授 内山秀彦(うちやまひでひこ)

写真:猫たちと一緒に研究!?
モグ(猫)と学生 — 猫を撫でたときの自律神経活動(猫と双方)と脳活動測定(人)の測定

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