東京農業大学

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発酵食品からバイオの世界を切り拓く

研究室トピックス|発酵食品化学研究室 2

酢酸菌に関する研究

酢酸菌は、食酢醸造において必須の微生物であり、食酢のみならずグルコン酸、セルロース、アスコルビン酸の製造にも用いられる極めて重要な産業用微生物です。食酢醸造用酢酸菌は、種々の炭素源を細胞膜上に存在する脱水素酵素により酸化し、電子伝達系との連動によりATP生産を行う「酸化発酵」能を有しています。この酸化発酵能は酢酸菌の特徴の1つであり、中でもエタノールが酸化されて酢酸を生じるケースを酢酸発酵と呼んで、これが食酢醸造の原理となっています。さらに、酢酸菌は生成した酢酸を細胞内に取り込み、TCAサイクルにより完全酸化する「酢酸過酸化」能も有しています。このように酢酸菌は、「酢酸発酵」と「酢酸過酸化」の2つのエネルギー代謝の方法をもち、これは、他の微生物では見られない酢酸菌の非常に特徴的な生理となっています。また、酢酸菌は食酢醸造環境下において、エタノール, 酢酸, 発酵熱などの複合的なストレスに絶えず晒されていますが、このような環境下でも酢酸菌は生きていくことが可能です。

では、このような特徴をもつ酢酸菌の細胞内生理はどのようになっているのでしょうか・・・実は酢酸菌の発酵生理は科学的に未解明な部分が多く残されているのが現状です。私たちは、ゲノム科学・代謝化学・遺伝子工学など様々な技術を駆使することで、このような謎多き酢酸菌の酢酸発酵生理を解明し、得られた知見をより良い食酢醸造に応用することが使命だと考えています。

1.酢酸菌の特徴的な酢酸発酵生理の解明

「先端技術で酢酸菌の謎を解き明かす」

細胞膜上で起こる酢酸発酵の間の細胞内代謝はどのようになっているのか?様々なストレス環境下でどのように耐性を示すのか?さらに、細胞内代謝とストレス耐性はどのようなメカニズムで制御されているのか?そのような疑問を明らかにするために、私たちは、各種食酢醸造用酢酸菌(Acetobacter pasteurianus, Acetobacter aceti, Komagataeibacter medellinensisなど)の発酵生理のメカニズムを、トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム解析などの各種オミックス解析や生化学・分子生物学的手法を用いて解析しています。各種発酵条件における菌体内代謝フローの解析や、発酵時ストレス応答メカニズムの解明、菌体内生理の発現制御メカニズムの解析等、様々なアプローチで酢酸発酵の謎の解明に挑んでいます。

2.ゲノムレベルでの比較による酢酸菌群の進化と系統の解明

「酢酸菌のゲノムに秘められた進化の系譜」

現在、酢酸菌は50種類以上が知られていますが、この巨大酢酸菌群の進化と系統については大きな謎があります。私たちは、次世代シークエンサーを用いて、ほぼ全ての酢酸菌のゲノム配列を解析しています。これら得られたゲノム情報をバイオインフォマティクスにより比較・検証することで、進化と系統を解明することを試みています。

3.ゲノム情報に着目した壷酢醸造に関わる酢酸菌の特徴の解明

「壷の中に広がる宇宙」

鹿児島県福山町で生産される福山黒酢(壷酢)は、江戸時代より伝わる伝統的な製法で造られています。発酵には陶器製の壷が用いられ、その中にお酒の原料を仕込んでおくと、麹菌以外は他の発酵用微生物を一切添加しないにもかかわらず、米の糖化、アルコール発酵、酢酸発酵が連続的に進行してお酢ができます。このような発酵に関与する微生物は、壷の多孔質な内壁に棲息していると言われており、壷酢醸造に馴化した特性を有していることが考えられますが、その詳細については未解明な部分を多く残しています。私たちは、このような壷付きの菌のうち、酢酸発酵の部分を担ういわゆる「壷付きの酢酸菌」の謎の解明に取り組んでいます。壷酢発酵中のサンプルより酢酸菌を分離し、そのゲノム情報を解読して、実験室株との比較解析や系統解析を行なって、「壷付き酢酸菌」の全容を解明することを目指しています。

食酢の成分の特徴に関する研究

「ターゲットは食酢成分」

食酢はお酒から造られるため、お酒の数だけ食酢が存在すると言っても過言ではありません。食酢は、米酢、穀物酢、リンゴ酢、ワインビネガーなど、日本をはじめ世界で様々な原料から多様な食酢が造られています。また、食酢によって「味」、「香り」も様々であり、これは原料、製造法の違いなどに起因しています。このような食酢の種類とその成分は、食酢を用いる料理のおいしさにも大きく関わっています。

私たちは、国内外の様々な食酢の成分を種々の分析機器を用いて解析することで、食酢の原料・製造法と各種食酢成分の特徴との関連性について調べています。そして、食酢の種類とそれを用いる料理のおいしさとの関連性を科学的に見いだすことを目指しています。

納豆に関する研究

「ターゲットは品質劣化抑制と菌の育種」

糸引き納豆は、日本において馴染みの深い代表的な発酵食品であり、食卓の名脇役として君臨しています。納豆は、納豆菌 (Bacillus subtilis var. natto) の働きにより、原料である大豆由来のタンパク質がアミノ酸などの各種成分に変換されると同時に、糸引き納豆特有のネバネバ (γ-ポリグルタミン酸・フルクタンの混合物) が生成されます。しかし、納豆には生きた納豆菌が多数存在するため、流通・保存時にも発酵が進み、品質劣化が引き起こされます。納豆の品質劣化は、褐変、シャリ(チロシン, ストラバイト)の生成、アンモニア臭の発生が挙げられます。

私たちは、このような品質劣化の抑制を目的として、優良納豆菌の育種を行い、納豆製造に応用することを目指しています。

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