環境共生時代の緑地学 その地域にちょうど適する“ぴったりの緑の風景”の創造・保全・再生 東京農業大学短期大学部 環境緑地学科 Department of Environment and Landscape

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環境緑地学科について

学科の志とアドミッション・ポリシー 「環境緑地学科指針No.5 2014」

環境共生時代の緑地学
みんなにとっての
“ちょうどよさ”
食・農・環境・みどり・地域
その地域にちょうど適する“ぴったりの緑の風景”の創造・保全・再生

 本学科は、緑と共に生きる共生の道を志し、その「地域にちょうどぴったりの美しい緑の風景づくり」に挑む。
 生物多様性、防災から減災へ、故郷の風景の復興、環境が経済を生み出すグリーン経済等、自然との共生、環境との共生、地域との共生への価値意識の高まりを思うなら、これを人間社会、動物や昆虫、植物にとっても“理想の風景像”であると理解することが一般化するであろう。
 環境共生が志向される今、都市と緑、さらには広大な田園との共生が改めて問われている。緑や田園に注目して国土の環境問題を見た場合、これまでは住宅地などの大規模開発を経験する中でクローズアップされた「開発による環境問題」であった。しかしこれからは人の手をかけることができない「放棄による環境問題」が取り上げられるのではないかと思われる。
 1962年に名著サイレントスプリング(邦語訳:『沈黙の春』)を著したレイチェル・カーソンは、DDTに代表される薬などの化学物質の危険性を訴え、“自然の征服、これは人間が得意になって考え出した勝手な文句にすぎない。”“自分達の扱っている相手は、生命(いのち)あるものなのだ”“人間だけの世界ではない。動物も植物もいっしょにすんでいるのだ”などと記している。同様なことを『奇跡のリンゴ』で木村秋則も、“木も動物も花も虫も皆、互いに生き物として自然の中で共生している”と述べている。さらに『国家の品格』で藤原正彦は、品格ある国家の指標の1つに“美しい田園”をあげ、“美しい田園が保たれている、ということは、農民が泣いていない、ということ”と記している。
 つくる人がいてこそ美しい農村景観は守られる。食を支える我が国の農家就業人口は約260万人(2011年)、総人口1億2700万人のわずか約2%である。しかもその74%は60歳以上で、61%にあたる160万人はすでに65歳を超えた高齢者である。
 つまり私たちの食、少なくとも主食であるお米は国民人口のわずか2%の高齢農家の方々に支えられている。現在国民1人当たりのお米の年間消費量は約61kg(2006年)で40年前(1966年)の約105kgに比して4割減少している。一方、我が国の食料自給率は主要先進国の中で最低水準39%、食糧輸入量のフードマイレージは約5000億t・km(世界ワースト1)、大量のバーチャルウォーターを輸入(世界一の水輸入国)し、世界中の人々が私達日本人と同じような暮らしを始めたら、地球2.3個必要とされている(エコロジカルフットプリント)。食べる人とつくる人が支えあう関係が課題となっている。
 日本を含むアジアモンスーン地帯でお米が主食となったのは、その気候風土にちょうど適していたからである。日本の美しく自然豊かな里山は、山から豊富な栄養分を含んだ水を田んぼに導き、中耕除草や定期的な畦の草刈りによってホタルやカエル、ドジョウやサシバ等の生き物にとってもちょうどいい、繁殖しやすい環境となり豊かな生物多様性を保ってきた。これらはわが国をはじめアジアモンスーンの気候風土では共通の田園風景、文化である。こうしたアジアの地域における人と自然との共生した農業景観は高く評価され、現在、世界農業遺産の7割がアジア地域に集中している。
 都市計画における都市の4条件の1つに利便、安全、衛生とならび、アメニティ(Amenity)があるが、イギリス都市計画家W.ホルフォードは『 Town and Country Planning in England and Wales 』の中で 、“ちょうどいい場所に、ちょうどいいものがある状態(The right thing in the right place)”と説明している。つまりその場所にちょうど適する“ぴったりの風景”を都市及び農村計画しなさい、と解釈できる。
 アメリカ造園学者マックハーグ(IAN L.Mcharg)博士は、名著『Design with Nature』(1969)で、自然環境のモニタリングに基づいて地域の生態学的分析を踏まえた地域生態計画を提案している。つまり、どこでも同じ一律の復興の風景ではなく、地域の自然環境と土地利用の時系列に沿ったモニタリング成果をレイヤ化・オーバーレイして分析・診断し、地域に適応・調和した計画を立案するエコロジカルプランニングEcological Planningは、復興に向けた再生支援の有効な手立ての一つと考えられる。
 美しい日本庭園を生み出してきた日本古来の造園の原書『作庭記』には「生得の山水おもはへて・・・」(自然本来の風景の姿を思い出して・・・)、『築山庭造伝前編』には、「本所離別といふ事」(環境に不適合、不調和なことはするな)と記されている。つまり“自然に従いなさい”、とされている。このコンセプトは、今なお生き生きと感じられ、環境共生時代の今こそ、大切な作庭思想である。
 市民のための都市公園が生まれてすでに160年。産業革命による都市環境問題の解決としてPark(公園)が誕生した。公園は都市の肺臓といわれ、都市にとって公園は必要不可欠な存在となった。20世紀自動車社会の到来による大都市化の環境問題に対し、1894年フレデリック・ロウ・オルムステッドによるボストンのエメラルドネックレス、1898年エベネザー・ハワードの田園都市論にみられるように、理想都市計画案も含めて多くのパークシステム(公園緑地系統)、グリーンベルト計画がつくられた。今なおヒートアイランド化した都市環境の改善、コンパクトシティ実現に向けた都市と緑との共生を考えると、これらの緑地計画のコンセプトは、大切にしたい緑地計画の共生思想である。一方、日本では都市の公園が誕生して140年となるが、その公園の先駆となった白河市の南湖公園(1801年)は、藩主松平定信によって士民共楽(武士も民衆も身分の隔てなく共に楽しむ)のために整備公開されたものであった。その後我が国初の公園制度の太政官布達第16号(1873年)による公園もまた、大衆、庶民の偕楽・レクリエーションの地が指定された。我が国の都市公園の原点には、共に楽しみ喜びあう幸福論(Wellbeing)がある。国土形成計画法(2005)、景観法(2004)、観光立国推進法(2007)の制定から10年近くがたち、成熟社会を迎えた日本において、量から質へ、豊かさの指標はモノの価値から地球幸福度指数、国民総幸福量といった健康・幸福の価値へシフトしている今、共感・共楽の価値をもつ公園は、大いに国民生活に貢献であろう。
 美しく自然豊かな田園風景、里山景観は、農林業中心の人々の暮らしにより守られてきたものである。かつて川越藩主柳沢吉保による三富新田をはじめとする武蔵野の屋敷林、仙台藩主伊達政宗による仙台平野をはじめとする居久根(いぐね)の屋敷林が点在する水田景観は、江戸時代からおよそ300~400年間変わらず持続してきた文化景観である。その環境を持続可能とした共生の思想には、“1木1草無駄にしない暮らし”、“無駄な木はないので、雑木とはいわない”といった無駄のない、自然と共生した人々の生きざまがみえてくる。里地・里山は理想の環境共生型ランドスケープである。今、荒れた山林、放棄された水田など里地・里山景観の荒廃といった環境問題がクローズアップされる中、これまで田園自然と共生してきた人々の生活文化の里山イニシアティブは、持続性(サステナビリティ)、循環型社会の構築に大いに貢献できる。
 環境共生時代の緑地学は、環境的価値、社会的価値の高いポテンシャルをもつ学問分野である。教員も学生も同じスタートラインに立っている。本学科で修得した知恵と技は、人々の生活の質(Quality of Life)の向上、健康(Healthy)幸福(Wellbeing)社会に大いに貢献できる。自然と共に生き、環境を活かし、地域に貢献する人材育成に共感し、緑の中で汗を流し、その地域にちょうど適する“ぴったりの緑の風景”の創造・保全・再生に向けて行動できる人材を求めている。

 

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環境緑地学科ではこんなことが学び、研究できます。
  • 実学教育を体感できます。
  • 本物から学びます。
  • 現場から学びます。
  • 自然から学びます。
  • プロから学びます。
  • 植物、花、樹木
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  • 田園自然、屋敷林、里山
  • 雑木林、森
  • これらの実物・フィールドでの授業、研究を通じて、「人と自然が共生する緑の環境づくり」について学びます。

環境緑地学科はこんな人を求めています
  • 虫や動物、花や植物を愛し、緑、自然との共生を志す人
  • 造園の伝統技能、技術を学び、庭師を志す人
  • 地球環境問題に関心を持ちつつ、地域環境に貢献したい人
  • 里山保全に興味を抱き、汗を流しながら人と自然の共生の技と知恵を学びたい人
  • 知覚動考(ともかくうごこう)をモットーに、体を動かしながら学ぶことが好きな人
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