環境共生時代の緑地学 その地域にちょうど適する“ぴったりの緑の風景”の創造・保全・再生 東京農業大学短期大学部 環境緑地学科 Department of Environment and Landscape

東京農業大学短期大学部環境緑地学科TOP 環境緑地学科について 実学教育の授業とは 実学教育の自信・取得可能資格 実学研究の研究室の今 スタッフの教育力・研究力 卒業後の進路

環境緑地学科について

学科の志とアドミッション・ポリシー 「環境緑地学科指針No.3 2011」

このたびの東日本大震災において被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
沿岸部では堤防、防潮林を乗り越えるほどの大津波によって多くの田園自然や漁場が被災しました。本学科の志が復興に少しでも貢献できればと考えています。かつて1933年の三陸沖大地震では、今回同様に青森、岩手、宮城の沿岸地域に大きな被害をもたらしました。その復興時における本多静六博士らによる『三陸地方防潮林造成調査報告書(1934年)』の中には、津波に対する防潮林や屋敷林の効果をあげ、津波の陸上における加害作用は弾性的なものは剛性的なものに比べて小さいとされ、高木にはクロマツ、低木にはマサキ、ツバキ、イボタ、その背後にはケヤキ、エノキなどの落葉樹、それらの樹林幅や高さ、その植栽技法まで細かく防潮林の計画がなされています。柔よく剛を制すといわれるように、このたび震災の復興計画においても自然を堅い構造物で制する思想ではなく、自然災害を柔らげて自然と共生する知恵と技、思想をもった復興計画でありたいと考えます。


 以下、本学科の志とアドミッション・ポリシーとする。
 本学科は、地球環境時代の今、都市と緑、田園、自然との共生を志す。   
環境緑地学科では、生き物や植物をはじめ自然の声に耳を傾け、数百年間も変わらず持続してきた人と自然との共生した田園自然、里山や屋敷林、鎮守の森や公園、日本庭園から学び、その持続可能な共生環境を創造、保全、再生するための技と知恵の修得に挑む。
 庭園のデザインコンセプトは美しさだけでない。日本のみならず世界最古の作庭書『作庭記』には、“自然に従いなさい”とされている。このコンセプトは、今なお生き生きと感じられ、地球環境時代の今こそ、大切な庭づくりの設計思想である。
 市民のための都市公園が生まれてすでに160年。産業革命による都市環境問題の解決としてPark(公園)が誕生した。公園は都市の肺臓といわれ、都市にとって公園は必要不可欠な存在となった。20世紀自動車社会の到来による大都市化の環境問題に対し、1894年フレデリック・ロウ・オルムステッドによるボストンのエメラルドネックレス、1898年エベネザー・ハワードの田園都市論にみられるように、理想都市計画案も含めて多くのパークシステム(公園緑地系統)、グリーンベルト計画がつくられた。今なおヒートアイランド化した都市環境の改善に向けて都市と緑との共生を考えると、これらの緑地計画のコンセプトは、大切にしたい緑地計画の共生思想である。
 1962年に名著サイレントスプリング(邦語訳:『沈黙の春』)を著したレイチェル・カーソンは、DDTに代表される薬などの化学物質の危険性を訴え、“自然の征服、これは人間が得意になって考え出した勝手な文句にすぎない。”“自分達の扱っている相手は、生命(いのち)あるものなのだ”“人間だけの世界ではない。動物も植物もいっしょにすんでいるのだ”などと記している。同様なことを『奇跡のリンゴ』で木村秋則も、“地球の中で生物も一生物に過ぎない”“木も動物も花も虫も皆、互いに生き物として自然の中で共生している”と述べている。さらに『国家の品格』で藤原正彦は、品格ある国家の指標の1つに“美しい田園”をあげ、“美しい田園が保たれている、ということは、農民が泣いていない、ということ”と記している。
 美しく自然豊かな田園風景、里山景観は、農林業中心の人々の暮らしにより守られてきたものである。コンクリートの固い直線ではなく、優しく柔らかな曲線の水路を維持し、農薬をあまり使用せず、田んぼの中耕除草、定期的な畦の草刈りをすることによって、ホタルやカエルなどのたくさんの生き物やキキョウやカワラナデシコなど秋の七草に代表される素朴な山野草と共生する。またきれいな谷水にはホトケドジョウやサンショウウオなどの貴重な生き物がみられる。これらはわが国の気候風土の下では当たり前の田園風景である。
 環境省によると動物RDB種(絶滅のおそれのある種)集中地域の49%、植物RDB種集中地域の55%が里地里山の範囲に分布しており、国土の4割を占める里地里山は、生物多様性の保全上重要な役割を担っている。また2007年の第3次生物多様性国家戦略でも、里地里山の危機が指摘され、里地里山の保全推進や生物多様性に貢献する農林水産業の推進が基本戦略の1つと掲げられている。
 かつて川越藩主柳沢吉保による三富新田をはじめとする武蔵野の雑木林や屋敷林、仙台藩主伊達政宗による仙台平野をはじめとする居久根(いぐね)の屋敷林が点在する水田景観は、江戸時代からおよそ300~400年間変わらず持続してきた環境である。その環境を持続可能とした共生の思想には、“1木1草無駄にしない暮らし”、“無駄な木はないので、雑木とはいわない”といった無駄のない、自然と共生した人々の生きざまがみえてくる。荒れた山林、放棄された水田など里地里山景観の荒廃がクローズアップされ、都市農村交流、参加協働型社会、循環型社会の構築が今日的課題である今、これまで田園自然と共生してきた人々の生きざまは、大切にしたい共生文化である。 緑地共生学は、これからの分野である。 教員も学生も同じスタートラインに立っている。虫や動物、花や植物を観察、育てて、野外フィールドや自然の中を歩き、現場から発見、発想する実学研究に果敢にチャレンジしてほしい。そのため虫や動物、花や植物を愛し、緑と共に生きる緑地共生することに共感し、ともに緑の中で汗を流し行動力のある人材を求めている。

 

>>>戻る


コピーライト