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実学主義の理念を支える東京農大の戦略的研究

東京農業大学先端研究プロジェクト(H22~H24年度)のご紹介

東京農業大学先端研究プロジェクト(H22~H24年度)のご紹介

大幅リニューアルした総合研究所ホームページの最初のトピックは、農学部農学科・篠原弘亮准教授の先端研究プロジェクト「植物と微生物の応答解明による環境保全型農業への貢献」の研究内容及び成果についてご紹介します。

先端研究プロジェクトは、農林水産分野及びその関連分野における新技術・新分野を創出するための独創的かつ先端的な研究で、本学の先端研究基盤の向上に資する研究プロジェクトであるとともに、研究成果や取組みは、将来本学の研究拠点形成を目指すものです。

篠原准教授の先端研究プロジェクトは、平成22年度の学内公募(選考)で採択され、平成24年度までの3年間実施されてきました。その間の研究成果は、平成25年2月2日に開催したシンポジウムのほか、多数の著書・学術論文等を通して学内外に発信しています。

篠原弘亮准教授のプロフィール

SHINOHARA, Hirosuke
昭和46年6月生まれ
東京農業大学農学部農学科卒・博士(農学)
農林水産省、(独)農業環境技術研究所等を経て、東京農業大学農学部農学科植物病理学研究室、現職
専門は植物病理学

植物と微生物の応答解明による環境保全型農業への貢献

作物病害が原因による収穫量の減収率は、期待されている収穫量の10~20%にもおよぶと推定されています。さらに、化学農薬による病害防除により作物の安定的な生産が維持されているにも関わらず化学農薬に依存した妨害防除からの脱却が求められています。このような状況から有用微生物などを活用した生物農薬などの微生物資材が注目され、利用も増加傾向にあります。植物病害は病原菌と宿主植物との様々な攻防(応答)の結果であり、さらに、病原菌と宿主だけでなくそこに生息している微生物も宿主との応答があると考えられます。しかし、植物と病原微生物の間に存在する応答メカニズムに関する研究は多いですが、病原微生物のみならず植物に生息している非病原性微生物をも含めてその定着と侵入あるいは植物側の抵抗反応を網羅的に解析した研究は少ないです。

そこで、本プロジェクトでは、植物が微生物に出会ってから何らかの応答反応を発現するまでのプロセスを、異なる植物と微生物の組み合わせを用いて、生物学的な現象の観察に止まらず、各種の先端技術を活用して解明するとともに、有用な微生物を探索して農業現場で利用するための基礎的な知見を得ることを目指しました。本プロジェクトでは、植物と植物等に生息する微生物に見られる非病原性微生物や難培養性微生物との応答、あるいは、植物と細菌類や植物ウイルスとの応答に見る病原性の獲得や喪失のメカニズムの関係、ウイルスのもつ非病原力産物と植物の抵抗性遺伝子産物との応答に関する知見を蓄積するために3つの分担課題を設けて研究に取り組み、得られた知見を現在必要とされている生産技術の開発と繋げることにより、環境保全型農業のさらなる発展に貢献すること目標にプロジェクトを実施しました。

植物に生息している微生物を利用して植物の健康を守る

作物病害に利用できる有用菌の探索として、イネから分離したHerbaspirillum sp. 022S4-11株は、イネ育苗期に問題となる細菌病であるイネもみ枯病(苗腐敗症)、イネ苗立枯細菌病およびイネ褐条病に対して発病抑制効果を有していることを明らかにしました。さらに、H.frisngenseおよびH.puteiにもHerbaspirillum sp. 022S4-11株と同様に高い発病抑制能があることを確認しました。これらの知見を微生物資材として活用していくために特許を出願(特開2012-92093)しています。

花に生息する嫌気性菌の探索と菌叢解析、そして新種のビフィズス菌の発見

植物に生息している微生物の解析としては、代表的な嫌気性菌であるビフィズス菌のO2感受性に関与する分子機構の解明を目的として研究を行いました。ビフィズス菌は一般に動物の腸管に生息し、それらは酸素(O2)存在下で生育が阻害されます。一方、ミツバチの腸管から単離されたビフィズス菌はO2に高い耐性を示し、O2が存在する好気条件下でも生育が可能でありました。そこでミツバチから単離されたビフィズス菌が花に由来することを推定し、2006年から山野や尾瀬国立公園内での採取許可を取得して、花の嫌気微生物叢の解析を行いました。本研究の過程において嫌気下で良好に生育する新種の乳酸菌の単離に成功し、尾瀬ミズギクやリュウキンカから単離された新種をそれぞれLactobacillus ozensisLactobacillus floricolaと命名しています。これらは花一輪から数万〜数億の菌数が検出され、かつグルコースとフルクトースのみを資化するという微生物生態学的に希有な糖資化スペクトルを示しました。新奇な特性を有する新種が発見されたことからも、花には人類が探索したことのない微生物フローラの存在が示唆されました。

本プロジェクトでは、培養できない微生物の検出を可能とする研究手法の確立を目的として、微生物のDNAをターゲットとした検出法の開発や、先端技術である次世代シーケンサを用いたメタゲノム解析の手法開発を行いました。その結果、花には好気性菌から嫌気性菌までの多種多様な微生物からなるフローラの存在が判明しました。今後はさらなる菌叢解析法の開発と、花に生息する嫌気性菌の生理的な意義の解明を目的として引き続き研究を推進します。

Lactobacillus Ozensis Mizu2-1T
オゼミズギクより単離した新種の嫌気性乳酸菌

トマトの重要ウイルス、トマト黄化葉巻ウイルスが感染したトマトで何が起きているか?

トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)は、世界中のトマトに大きな被害を与える重要ウイルスで、微小昆虫コナジラミにより伝搬され、日本国内でも発生地は拡大しています。同じTYLCVでも性質の異なる“系統”が存在し、抵抗性遺伝子を導入した一部のトマトでは抵抗性が打破され感染が起きるなど、多くの課題があります。

本研究では、2系統のTYLCVの感染性クローンを構築しアグロインフィルトレーション法により、トマトに人工感染させます。そして、先端技術であるDNAマイクロアレイ法により、トマトで知られている約46000種類のトランスクリプトーム(mRNA)の活性化を検討しました。この技術では、TYLCV感染に反応するトマトの遺伝子を網羅的に調べることができます。その結果、2系統に対し共に活性化するものが16、1系統のみで強く活性化するものが36、また別の1系統のみには約70と、系統によりトマトの反応が異なることが明らかになりました。また、それらには、既知遺伝子に加えて、機能が未知の遺伝子も多く含まれていました。この結果の解析は、抵抗性や抵抗性打破のメカニズムの理解に大きく貢献するものと考えます。


TYLCVに感染したトマトの病徴

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